なぜ「期間限定」を見ると買いたくなる?→認知科学者「人間のさがです」写真はイメージです Photo:PIXTA

「今日の1万円」と「明日の1万1000円」なら、あなたはどちらを選ぶだろうか。人はなぜ、将来の得よりも目の前の楽しさに飛びつき、あとになって「あっちにすればよかった」と悔やむのか。実は、衝動買いや後悔には、過酷な自然環境を生き抜いてきた人間の“動物としての本能”が深く関係している。認知科学者の石川幹人氏が、現在を優先してしまう心理と、後悔が生まれる意外な理由を進化の観点から解き明かす。※本稿は、認知科学者の石川幹人『科学が解明した 悩んでもしょうがないことリスト』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。

人はお金より目の前の
現物に価値を感じやすい

 お金って、すごーく便利なものだって知っていますか?給料でもらった1万円札は、1万円のどの商品やサービスとも交換できます。交換するまでは、「何を買おうかな」といろいろ想像が膨らみます。

 でも、衝動買いしちゃう人は、想像をめぐらすよりも現実の物を所有するほうを優先しています。買ってしまってから、「別の物を買ったほうがよかった」などと後悔するのです。

 お金が登場したのは、文明が発祥してからです。それまでは交易で物々交換をしていました。

 人々は、それぞれの地域で豊富にとれる物を持ち寄り、ほかの地域の物と交換していました。交換のときは、自分の持っている物がそれより価値の高い物へと交換できたので、おたがいに満足したのです。

 お金が登場して、この交換関係が経済活動にランクアップしました。仕事=労働で社会に貢献し、その証しとして給料=お金をもらいます。

 それによって商品を買えば、その商品を生産した人にお金が回ります。その結果、社会での分業が進み、生産性が上がって経済成長するのです。

 ところが、1万円札は単なる紙切れであり、その価値は「将来買い物ができる」という交換価値(注1)です。将来を想像できれば、可能性が広がって楽しむこともできるのですが、人によっては現実が優先します。単なる紙切れの1万円札ならば、流行の服や人気のアクセサリーに交換したほうが、価値が高くなった感じがするのです。

人間は未来より現在を
優先するようにできている

 動物の立場になって考えてみましょう。単なる紙切れを与えられて「これは将来、価値あるものと交換できますよ」と教えられても、しっかりは理解できないでしょう。紙切れよりも食べられる物を希望し、交換できるならすぐに食べ物が欲しいと思うでしょう。未来よりも現在が大事なのです。

 人間も、こうした動物と五十歩百歩です。紙切れのお金は早く交換して、現実の物で満足したくなるのです。お金が文明の時代になってはじめて登場したのが、その主原因です。人間であっても、お金が持つ将来の交換価値を十分に理解するまでの進化ができていないのです。

 衝動買いは、未来よりも現在を大事にする近視眼的な姿勢の表れなのですが、じつはそのほうが経済にとってはよいのです。「将来何を買おうかな」と考えていると、その間はお金を使わず、お金の流れが止まります。すると、人々の分業体制が滞るのです。

注1 お金の価値は、国の中央銀行が市場を通じて安定化させています。