書店で本を選ぶ女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「自己啓発本は好きだけれど、少し苦手」――そんな複雑な感情を抱く人もいるのではないだろうか。実際、自己啓発本には世界で数千万部、1億部に達するベストセラーがある一方、日本では「うさんくさい」「頑張らされる」といった見方も根強い。なぜ自己啓発本は、これほど多くの人を引きつけながら、同時に反発も招くのか。アメリカ文学者の尾崎俊介氏が、自己啓発本が売れる理由と、日本で独特の受け止められ方をしてきた背景を読み解く。※本稿は、アメリカ文学者の尾崎俊介『自己啓発本を1000冊読んでわかったこと』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋・編集したものです。

アメリカの自己啓発本は
桁違いに売れている

 自己啓発本の定義は、「不幸な現状を打破し、現世的幸福を獲得するためのノウハウを指南する本」です。これ以上でも、これ以下でもない。

 ただ「現状打破からの自己実現的幸福獲得」の端的な道筋の1つが、広い意味での「出世」であり、また出世に伴う「収入増(=金儲け)」であるため、「自己啓発本=出世指南/金儲け指南の本」というイメージで捉えている人も少なくないかもしれません。

 そして「出世したい」とか「お金持ちになりたい」と考えている人は世の中にごまんといますから、自己啓発本は数多ある文学ジャンルの中でも「売れ筋」ではあります。実際、売れるか売れないかで言ったら、自己啓発本は売れます。

 自己啓発本というのは、基本的に「売れる文学ジャンル」です。それは日本市場においてもそうであって、松下幸之助の『道をひらく』はもとより、水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』といった近年の大ベストセラーをはじめ、売れ筋の自己啓発本はいくらでもある。実際、書店に行って「自己啓発本」のコーナーに行けば、誰しも、おびただしい数の自己啓発本が、面出しで、あるいはポップ乱立で、ド派手に売られていることに圧倒されることでしょう。

 でも驚くのはまだ早い。アメリカの自己啓発本の中には、それこそ桁違いで売れているベストセラーが山ほどあります。

 有名どころを挙げていくと、デール・カーネギーの名著『人を動かす』は1500万部が売れていますし、スペンサー・ジョンソンの『チーズはどこへ消えた?』は3000万部、ウエイン・W・ダイアーの『自分のための人生』は3400万部、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』が4000万部、ベンジャミン・スポックの『スポック博士の育児書』やルイーズ・L・ヘイの『ライフヒーリング』に至っては5000万部が売れている。「自己啓発本界のナポレオン」ことナポレオン・ヒルの『成功哲学』(Think and Grow Rich)は、なんと!1億部の大台に達しています(販売部数はウィキペディアによる)。

小手先のノウハウも
反感を買う一因になる

 とまあ、自己啓発本というのは基本的に売れる本が多いのですが、それにもかかわらず――いや、むしろ「それだからこそ」と言うべきか――アンチの多さも半端ない。

 とりわけ日本では、自己啓発本を毛嫌いする方が大勢いらっしゃいます。現世的な幸福追求の本であるという自己啓発本の性質自体、日本人の感性からすると、ちょっとこう、はしたない感じがするのでしょう。