漢字は意味を表す部分に使い、仮名は音声を表す部分に使うのが原則である。ただし、表す意味が明確でなく意味が軽い場合には、仮名を使う。

 例えば、次の文章はどうでしょう。

(1)漢字と仮名を上手に使い分けることが基本です。

 この場合、「漢字・仮名・上手に・使い分ける・基本」には漢字が使われています。これらは意味が明確な語なので、漢字で書いています。ただ、「上手に・使い分ける」には送り仮名が必要なので、その部分には仮名が使われています。

 残りのうち、「こと」以外の「と・を・が・です」は助詞・助動詞で、語単独では明確な意味がないので仮名書きです。

「こと」は名詞で、意味もあります。しかし、(1)では「使い分ける」を受け止める役割をしている程度で、「こと」そのものの意味と言えるものはありません。よって、意味が軽いと言えましょう。こういう「こと」は形式名詞と呼ばれて、ふつう仮名書きされます。

 ただ、「こと」には、次のように漢字で書かれる場合があります。

(2)事の起こりは、朝の電話でした。

 この「こと」は「事件」のような具体的で明確な意味があります。(1)の「こと」と比べると、はっきりとした意味があります。それで、漢字で書かれるのです。

 つまり、「こと」には、(1)の形式名詞の場合と、(2)のような具体的な意味をもっている場合があるのです。そして、形式名詞は仮名、具体的な意味がある場合は漢字で書かれます。意味の明確な語は漢字で書き、意味の軽い語は仮名で書くという考え方に合った使い分けです。

それはただの「表記ゆれ」
ルールに従うのが「使い分け」

 ところで、(1)の文の「上手に」を仮名にして

(3)漢字と仮名をじょうずに使い分けることが基本です。

 と書く人もいます。全く同じ意味の「じょうず」が漢字で書かれたり仮名で書かれたりしています。同一の意味の語が複数の書き方で書かれる現象を、「語表記のゆれ」と読んでいます。

 先の「こと」と「事」も、広い意味では語表記のゆれです。ただ、用法によって漢字と仮名を使い分けていたので、ここでは「使い分け」と呼ぶことにします。他方、「上手」と「じょうず」は、意味が全く同じなのに、書く人によって、あるいは、同じ人でも書くときの気分で表記が異なる場合です。こちらは、語表記の「単純なゆれ」と言えます。