「お話しいただく」なら、「話してもらう」自分の行為を低めていますが、「お話ししていただく」となると、「お話しして」の段階で、「話す」人の行為を低めてしまいます。謙譲語のはずなのに、相手の行為を低めては大失敗です。
失敗する人は、まず「話していただく」という表現を思い浮かべます。しかし、それでは丁寧さが足りないと考えて、「お」を付けようとします。すると、相手が「お話しして」という謙譲語を使うことになってしまいます。
ところが、「お話しする」が謙譲語だという認識がなくなっているので、それを間違いとは思わず、単なる“丁寧な言葉”だと思ってしまうのです。謙譲語の役割である「自分の行為を低めることによって相手を高めて敬意を示す」などという認識が消えている(もちろん、すべての人ではありませんが)ので、間違いがわからないのです。
改めて考えてみれば、「自分の行為を低めることによって相手を高めて敬意を示す」謙譲語なんて、遠回りで面倒な方法です。それよりも単に“丁寧な言葉”を使えばいいと考えていいなら、とてもラクでしょう。
・今日はこれで帰ります。
・健康のために散歩をしています。
・健康のために散歩をしています。
これに対して、自分の行為を“丁寧な言葉”で述べようとするのです。その結果、
・今日はこれで帰らせていただきます。
・健康のために散歩をさせていただいています。
・健康のために散歩をさせていただいています。
となるのです。
「させていただく」の使用拡大を通して、謙譲語はこれまでの役割「自分の行為を低めることによって相手を高めて敬意を示す」から外れて、“丁寧な言葉”への道を歩み始めています。それは、謙譲語の崩壊への道だと言えるでしょう。
【参考文献】
佐竹秀雄・西尾玲見(2005),『敬語の教科書』,ベレ出版
佐竹秀雄(2023),謙譲表現に見る敬語認識の変化 -敬意の表示から丁寧さの重視へ-,Japio YEAR BOOK 2023
佐竹秀雄(2024),敬語の近未来予測─敬語システムの崩壊─,武庫川女子大学言語文化研究所年報34
佐竹秀雄・西尾玲見(2005),『敬語の教科書』,ベレ出版
佐竹秀雄(2023),謙譲表現に見る敬語認識の変化 -敬意の表示から丁寧さの重視へ-,Japio YEAR BOOK 2023
佐竹秀雄(2024),敬語の近未来予測─敬語システムの崩壊─,武庫川女子大学言語文化研究所年報34
著者の佐竹秀雄氏をフォローすると、過去記事〈第1回:そこは「~してください」では?表現・表記のプロが違和感をもつ日本語/第2回:メールで「〜いただき」ばかり使って「〜くださり」を使わない人が知らない事実〉を無料で読むことができます。







