超金融緩和を前面に出した安倍政権に対し、「責任ある積極財政」を強調して財政拡張に重点を置いている(金融緩和もできるだけ維持しようとしている)ようにみえる。
まず、アベノミクスは「デフレ脱却」が目的だったのに対し、現在はインフレであって、状況は完全に異なる。そのもとで拡張政策を再現するというのは(そう発言すること自体)、インフレをひどくし、基本的に不適当である。
この点に関わって、「強い経済を実現する総合経済対策」(首相官邸ホームページ)は、(1)デフレからインフレに変わった今は、停滞から拡大へ移行する好機であり、(2)それを積極財政で後押しすべき、という基本的な状況判断であるように受け取れる。
(1)は、一般論としては事実の部分が含まれている。つまり、物価が下がりぎみなもとでは、売上額も減少しがちなので、前向きに拡大しようとなりにくく、停滞になりやすい。これに対して軽度のインフレは拡大意欲を起こす可能性がある。このことは実証研究でも支持されている。
しかし(2)の判断を肯定することはできない。第1に、当面するインフレの火に油を注ぐ。
第2に、すでに述べた財政と金融における困難や危険をさらに悪化させる。そして第3に、“好転”の後押しに必要なのは、財政を拡張することではなくて、縮小の悪循環の体系を組み換えることである。
『日本経済はなぜ沈下したのか 「正しさ」が招いた35年の停滞』(伊藤 修、朝日新聞出版)
財政拡張による後押しの方法にも問題がある。企業減税が挙げられているが、それはすでに長期間にわたって実施してきており、有効でないことが実証済みである。資金不足の時代には減税は投資に回ったが、現在は企業の手元資金は余剰にある。
また、育成産業を指定して補助金等を与える政策手法が掲げられている。その効果は不確定で、現時点では何ともいえない。有望産業を政府がピックアップするのは容易でなく、困難だといった方がよい。
キャッチアップの時代にはターゲットが欧米に現存したのに比べて、現在では産業の有望性がきわめて不確実だからである。
現に、歴代内閣(内実は経済産業省)が長期にわたって「成長戦略」として今回とかなり重なる産業を挙げてきたが、効果が出ているとはいいがたい。
産業のピックアップよりも、インフラの整備、ボトルネックの回避によって条件を整える考え方の方が確実性が高いであろう。







