「視力0.5」で免許を失った
元鉄道運転士の男性の訴え

 こうした中、オンライン署名サイトchangeにて「鉄道運転士・鉄道会社の人手不足への矛盾—動力車操縦者運転免許に関する省令への身体基準緩和を求める署名」を行っているのが近藤龍弘さんだ。

 近藤さんは現在37歳、高校卒業後9年間の自動車工場勤務を経て、2019年に岐阜県の第3セクター鉄道「長良川鉄道」に入社し、幼いころからの夢だった鉄道運転士になった。

 しかし、近藤さんの夢はわずか4年で終わってしまう。病気で左目の視力が低下してしまったのだ。鉄道の運転免許である「動力車操縦者運転免許」に関する省令は、視機能の条件として下記の要件を定めている。

一 視力(矯正視力を含む。)が両眼で1.0以上、かつ、一眼でそれぞれ0.7以上であること。
二 動力車の操縦に支障を及ぼすと認められる両眼視機能の異常がないこと。
三 動力車の操縦に支障を及ぼすと認められる視野の異常がないこと。
四 動力車の操縦に支障を及ぼすと認められる色覚の異常がないこと。

 近藤さんは病気後も両眼では1.0以上の視力があったが、左目は手術や矯正を行っても0.5までしか回復せず、要件を満たさなくなってしまった。つまり、運転免許が失効してしまったのだ。また、駅や車庫で働く運転取扱職の社内規定も、運転士と同等の視力を求めていたため、これもできなくなった。

 もちろん、鉄道業界にはさまざまな事情で運転職から離れざるを得ない人は存在する。こうした人は通常、駅員や事務職に転じるものだが、社員数66人の長良川鉄道に余裕はなく、近藤さんは自己都合退職を選ばざるを得なかった。

 断っておくが、これは長良川鉄道の対応を告発する記事ではない。近藤さんは視力の問題で運転士を辞めざるを得ない立場となったことで、むしろ長良川鉄道のようなローカル鉄道のためにも視力基準を緩和し、運転士を確保しやすくするべきではないかと考えるようになり、署名活動につながったという。

 近藤さんの主張は多岐にわたるが、大きくは下記の3点だ。

1.日本も加盟する国際鉄道連合(UIC)の下部組織、国際鉄道医療連盟(UIMC)は、視力基準を「両眼合算0.8以上、かつ状態の悪い方の眼(単眼)で0.5以上」としている。諸外国では単眼の下限値は大多数が0.5以上であり、世界基準との乖離が大きいこと
2.現行の視力基準は、在来線最速の時速160キロ運転における地上信号の視認性をもとに決定しており、時速80キロ以下で走行するローカル線においては過剰であること
3.車内信号式保安装置や自動運転(ATO)が普及している今、地上信号の視認性のみを基準にするのは不合理であること

 そして、「国際基準をふまえて視力基準を再検討」し、「視力など身体基準を緩和した速度限定免許の新設」を求めるのが署名の内容だ。念頭に置くのは、自身のように病気で視力が低下した人だけではない。地域鉄道には高齢の運転士が多いため、加齢に伴う視力低下でハンドルを手放さざるを得なくなれば、影響は大きい。