「視力1.0」は絶対条件?
30年で3度変わった基準

 視力基準の安易な緩和は安全性の低下をまねくのではないか、と心配するかもしれないが、実は省令の身体基準は過去30年で3度変更されている。

図表:「動力車操縦者運転免許に関する省令」に定められた視力基準の抜粋「運転士の視力基準を見直す」『RRR』71(4)から抜粋 拡大画像表示

 運転士の視力基準は戦前から、各眼とも1.0以上が基本とされてきた。当初は裸眼が原則だったが、1959年(昭和34年)の改正にて、矯正視力1.0が認められるようになった。ただし、裸眼で0.2以上でなければならず、かつメガネの屈折度に制限があった。

 この基準は長らく用いられたが、1990年代に入ると、生活環境の変化による若年層の視力低下が進み、裸眼0.2をクリアできない人が増えたことから、将来の運転士確保のために基準の見直しを求める声が高まった。

 日本鉄道運転協会の協会誌1994年7月号に「多数の鉄道事業者の皆様から極めて強い要望のありました、動力車乗務員の視力基準の検討につきましては、運輸省のご指導の下に(略)各社共同の委託研究を受託し、現在、検討を進めて」いるとの記述があるように、鉄道業界の強い働きかけがあったようだ。

 運転協会に設置した調査検討会の検討を経て1994年(平成6年)に省令が改正され、各眼が裸眼または矯正視力で1.0以上となり、また、メガネの屈折度も大幅に緩和され、極端な強度近視でなければ要件を満たすようになった。ただし、1.0の基準は単に前例を踏襲したわけではないようだ。

 当時、調査検討会で主査を務めた東京厚生年金病院眼科部長の大平明彦氏は「検討の途中で矯正視力1.0を0.8にゆるめてはどうか」という話が出たと述べている(『Insurance』1995年11月号)。その上で「ここまではよいという基準を作るのであれば“目安”をどういうものにするのか」を議論し、信号の視認性について実地調査を踏まえて決定した。

 これを引き継いだのが2012年(平成24年)の改正だ。この改正で、現行基準と同じく「視力(矯正視力を含む。)が両眼で1.0以上、かつ、一眼でそれぞれ0.7以上あること」へと大きく緩和された。この時も運転協会内に調査検討会を設置し、実地調査を行った上で視力基準を決定した。片眼だけとはいえ、基準を1.0から0.7に緩和したのは歴史的な変化であった。