運転士の間口を広げても足りない
地域鉄道が抱える深刻な問題

 近藤さんは署名サイトの冒頭に「国土交通省の18歳引き下げや外国人採用は"ズレている"『安全に走れる運転士』を排除する『時代遅れの免許省令』の改正を!」と記した。しかしながら、筆者はこれには同意できない。年齢要件引き下げ、外国人採用と視力基準の緩和は背反するものではないからだ。

 20代後半から30代前半の年齢別人口は約130万人で推移しているが、10年後に18歳を迎える世代は91万人、2025年度の出生数は67万人まで減少した。何を優先するかではなく、多様なアプローチで人材確保を進めなければ人手不足は解消しない。

 人材不足に悩むローカル鉄道のほとんどが最高速度80キロ未満であり、近藤さんの「速度限定免許」は一考の価値がある。ただ、関係各所に取材すると、まだ機が熟していないとの印象を受ける。

 かつて「極めて強い要望」を唱えた鉄道事業者も昨今はおとなしい。今回の記事執筆にあたり、大手鉄道事業者に受験資格の見直しについて要望はあるかを聞いたが、加齢などの視力低下で現場を離れざるを得ない運転士や、それに伴う人員不足などの問題は、特に把握していないという。

 また、基準の見直しについても「国が決めることに従うだけなので」「安全性の低下につながると受け止められかねない」などと歯切れが悪い。時代の変化にあわせた規定の見直しの必要性に言及した事業者もあったが、現在のところ、視力はメニューに入っていないようだ。

 とはいえ、背に腹は代えられぬ。大手事業者が運転士不足に直面すれば、1994年、2012年の事例が示すように、自ずと緩和の議論は始まるだろう。問題は発言力の小さい地域鉄道がそれまで持ちこたえられるかである。

 しかし、ここにもうひとつの重要な条件がある。そもそも地方鉄道は賃金水準が低すぎるため、採用が進まず、定着もしない。いくら間口を広げても、同じかそれ以上に流出してしまうのでは、問題は解決しない。これこそが大手との決定的な差である。

 各地で地域鉄道の存続に関する議論が進んでいるが、経営が厳しいと賃金引き下げの方向に働きがちだ。それでは未来はない。役割を終えた鉄道への公費投入は理解を得られないだろうが、地域が鉄道を必要としているのであれば、人件費に対する補助についても議論しなければならないだろう。