「できるはずがない。訴訟で勝ってどうするんですか。そんなことよりも、建設を進めてもらうほうがいい。1年が2年に延びても、できないよりはいいでしょう」
私たちは、買い手優位の世界から、だいぶ遠い先のところにやってきた。
「以前に出していた1億円の見積書を訂正したい、と受注企業がいうわけよ」と困窮したような、諦念を浮かべたような顔で教えてくれる。
「以前だったら『ふざけるな』って話でしょ。しかし、いまはしっかりと話を聞くしかない。だって、『じゃあ仕事から撤退します』といわれたら困るもん」と。
中野サンプラザの再開発費は
3年のうちに倍増した
遅延と高騰の末に起きた、中野サンプラザの“事件”は有名だ。老朽化ゆえに中野サンプラザは2023年7月に閉館した。ただ、本来は再工事で復活するはずだった。
2021年に再開発事業者を選定。そのときの工事の総事業費は1810億円だったのだが、資材の高騰で、2639億円になった。さらに2024年に工事費は900億円も上乗せされ、結果、3540億円になった。もとの2倍ほどだ。資材費の高騰もあるが、人手不足で労務費を積み上げないと工事ができない状況だった。
高騰しすぎで区は苦渋の決断をした。2025年6月に東京都中野区長は野村不動産等との中野サンプラザ再開発協定の解除に踏み切った。中野サンプラザの再開発は、人手不足ゆえの労務費高騰でやり直しになった。
ゼネコンやサブコンでは、ここから数年の新規大型工事の競争入札案件の参加自体を避ける傾向が強まっている。事業者からすると、受託企業が引き受けてくれるかがボトルネックだ。
昔は相見積書を取得して並べるのが一般的だった。最低3社から相見積書を取得し数字を並べて、もっとも安い取引先を呼び出し、さらに安くしてもらう。もはや規定演技だが、取引先も慣れていた。断られたら、他の相見積先にお願いするか、海外を探す。
しかし現在では「枠が取れない」「人材が確保できない」と断られる始末だ。相見積書を取得すれば安くなる、という常識が崩れはじめた。
事業者が取引先を選別する時代は終わっており、むしろ取引先が供給を拒否する“状態”が“常態”化している。見積書すら出してもらえないケースも多発している。







