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2026年の米国経済にトランプ関税はどう影響するのか。AIバブルの調整や雇用悪化で景気後退に向かうのか。特集『総予測2026』の本稿、米国経済対談前編では、ジョセフ・クラフトロールシャッハ・アドバイザリー代表取締役と小野亮みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパルが、賃金・雇用、トランプ減税と大型の減税・歳出法「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」、インフレとFRBの政策対応、関税政策の根拠法であるIEEPA(国際緊急経済権限法)を巡る連邦最高裁判決や対米投資の行方まで多角的に読み解く。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
底堅く推移する景気
2%前後の成長を堅持
――2026年の米国経済の見通しは。
ジョセフ・クラフト氏 ミシガン大学の消費者信頼感指数は11月時点で1970年以降のほぼ史上最低水準をつけています。つまり、消費者センチメントは確実に弱含んでいます。
一方で、製造業指数やサービス業・非製造業指数を見ると、低迷しつつもそこそこ堅調というレベルは保っています。また、消費関連の指標も同様です。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「景気は予想より幾分堅調に推移している」といった、楽観的なトーンの発言をしています。一定程度、景気の底堅さを認識していて、「危機的だ」という意識は持っていないと見て取れます。
だから、センチメント面ではかなり弱いが、実体面では底堅さもある状況を総合して、足元の景気は「強弱混在」とみています。
米国景気はソフトランディングが可能ではないかと考えています。景気は鈍化して成長率は低水準になるものの、本格的な景気後退には至らないのではないでしょうか。
小野亮氏 現状については、「予想以上に強い」という認識です。25年全体を振り返ってみても、当初は関税の影響で景気後退期入りするだろうと、24年末の時点では予測していましたが、現実には、そうなりませんでした。
その要因の第一は賃金と雇用です。雇用情勢が何とか持ちこたえている。特に賃金の伸びがインフレ率を上回り続け、実質賃金がプラスで推移していることが大きなポイントです。
第二は株高がもたらす資産効果による消費底上げです。AIブームなども重なって株価が上昇しています。
そして第三は関税の影響をほぼ全て企業部門が吸収しているという点です。企業側が我慢をしながらコストを引き受け、家計への直接的な負担はさほど大きくない。そして、インフレが進んでいることもあって名目上の売り上げはそれなりに伸び、企業収益も悪化していない。
結果、米国経済はわれわれの想定以上に強く、底堅く推移しています。
それがいつまで続くのか。25年の終盤から、あるいは26年の前半になると、関税の影響がフルに効いてくると考えています。25年夏場になって、相互関税や関税率の設定がほぼ出そろいました。これまでは“移行期間”だったので、企業も何とか耐えられた。しかし、これからはフルに効いてくる。その意味で、景気は弱含んでいくだろうとみています。その弱さが最もはっきり表れるのは、おそらく雇用です。
いったんは景気が減速するものの、26年に入るとトランプ減税の恒久化・延長に加えて、追加減税の効果が出てきます。家計向けの追加減税分だけを取っても、私どもの試算では年間で600億ドルを超えるとみられます。OMB(米行政管理予算局)によれば、大型の減税・歳出法「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」に含まれる企業向け減税や歳出増を加えると、26会計年度、つまり25年10月から26年9月にかけて2640億ドルも財政が拡大します。
――成長率の予測は。
小野氏 減税が、年の前半に還付金という形で家計に入ってくる。米国経済全体としては減速した後、第2四半期あたりから緩やかに回復していくでしょう。26年は潜在成長率2%をわずかに上回るような成長となるとみています。25年の成長率見込みを1.8%程度とみているので、そこから2%へと緩やかに回復していきます。
クラフト氏 成長率は、1%台後半から2%前半とみています。
先ほど小野さんがおっしゃったように、関税のフルの影響は、26年前半に顕在化してくるとみていますが、これがまずリスク要因の一つです。
もう一つのリスク要因は雇用、とりわけAIの影響です。AIによる効率化、コスト削減によって、どこまで雇用減が本格化してくるのか。
さらにリスク要因を挙げるとすれば、資産価格の調整リスクです。AI関連投資が過剰になっていると感じています。直近の株価の上昇ペースはさすがに速過ぎる。10%から20%程度の調整局面が年末年始にかけてあってもおかしくない。
株価が調整すれば、資産効果はそがれます。26年前半は、インフレ圧力、株価調整、それにAI由来の雇用減が重なって、やや減速気味になる。その後、後半にかけて持ち直していくとみています。
トランプ関税の“負担”はどの主体が吸収するのか。次ページでは、AIがもたらす雇用シフトや雇用と物価の板挟みにあるFRBの難しいかじ取り、関税政策の根拠法であるIEEPA(国際緊急経済権限法)を巡る連邦最高裁判決の行方、5500億ドル対米投資の実像まで、小野氏とクラフト氏が立体的に検証する。







