人間は集団生活を送る中で、他者の感情を敏感に察知するよう進化してきました。そのため、職場に一人でも不機嫌な人がいると、多くの人が無意識に緊張状態になります。「何か悪いことをしただろうか」「話しかけても大丈夫だろうか」と考え始め、本来の業務に集中できなくなります。結果として、職場全体のコミュニケーションが減少し、生産性や心理的安全性が低下します。

 厄介なのは、やっている本人は自覚していない場合が多いことです。「ただ機嫌が悪かっただけ」「感情を表に出しただけ」と考えているケースもあります。しかし、管理職や影響力の大きい人ほど、その感情表現は周囲に大きな影響を与えます。

 職場においては、自分の感情を伝染させる自由よりも、周囲が安心して働ける環境を維持する責任の方が重要です。不機嫌をまき散らさないことも、現代のビジネスパーソンに求められる重要なスキルの一つと言えるでしょう。

令和の管理職を苦しめる
「ハラスメント恐怖症」

 ハラスメントに関して、社会的関心は確実に高まりました。「人を守る」という点で大きな前進である一方、「何を言ってもハラスメントと言われるのではないか」「部下を指導できない」という新たな悩みも生まれています。これがいわゆる「ハラスメント恐怖症」です。

『悩みの統計学』書影『悩みの統計学』(藤田康男、扶桑社)

 カウンセラーアンケートによると、相談者の29.1%の方が「ハラスメント恐怖症」に悩んでいます。その結果、管理職の中には、問題行動を見ても注意をためらったり、厳しいフィードバックを避けたりする人がいます。いわゆる「回避的マネジメント」と言われるものです。

 本来、適切なフィードバックは部下の成長に不可欠なものです。しかし、上司が衝突を回避し続けることで、部下側は逆に「自分は期待されていないのではないか」「適切な指導が得られない」と不満を募らせるという皮肉な逆転現象が起きています。

 こうしたコミュニケーション不全は、管理職を精神的に疲弊させ、いわゆる「管理職の罰ゲーム化」を助長する一因にもなっています。管理職自身も適切な指導の必要性を感じていながら、ハラスメントと指摘される恐怖から動けず、その一方で組織からは従来通りの成果を求められます。

 こうした板挟みの状態の中で、周囲に相談もできず孤立した結果、指導側であるはずの管理職が精神的に追い詰められ、メンタル不調に陥ってしまうケースも少なくありません。