医師のアルバイトは一般的に高給で、1日働けば8万~10万円くらいになり、週1回50週なら、年収400万~500万円になる。大学を辞めるまで、ぼくもそういうアルバイトをずっとやっていたが、その途中では薄給のアルバイトも経験した。

 いずれにしてもアルバイトをしないと生活が成り立たないというのはどうなのか。患者から見て、自分の担当医が週に1回、姿を見せないのは心細いだろう。

 医療の基本は患者を診ることだと教えられて育ってきた若い医師が、アルバイトのために病院を離れるのはやはりおかしい。これを解決する唯一の手段は医員の給与改善である。

 医員は大学院に進学したり、関連病院と呼ばれる一般病院に出向したりする。大学病院で一定以上の難しい手術は助教以上が担当する。やっぱり、いろいろな責任が発生するので、難しい手術は正社員(編集部注/助教以上は正規職員だが、医員は非正規職員である)にしか任せられない。それでは医員は腕が上がらないので、年単位で一般病院に出向して腕を磨き、また年収1000万円を超える収入を得る。

博士号を取っても
医師の給料は上がらない

 ぼくが若い頃、大学院に進学して博士号を取得することは「足の裏の米粒のようなものだ」と言われていた。気になるなら取っておけばいい、でも取ったところで食べられない(=それで給料があがったりしない)という意味だ。

 SNSを見ていると、博士号を取った方がいいか否かの質問と回答が飛び交っているが、申し訳ないが、それは一流国立大学医学部での会話とは言えない。

 たとえば、千葉大医学部は大学院重点化(編集部注/2001年に千葉大は、それまで医学部と薬学部に所属していた教員を、大学院の所属に変えた。教員は大学院教育を専任とし、医学部教育を兼任とする)を受けているので、大学院に進学することが当たり前。臨床の腕に関係しないとか、金銭的なインセンティブに結びつかないとか、すぐに言われたりするが、いい医者でなおかつ研究のできる医者を養成することが大学病院の務めである。そこで学んだ科学的な思考は医師にとって一生の財産になる。

 医師が大学院に進学するのは、通常は医員のときである。他の学部のように4年間の学部生のあとに引き続き大学院に進学するというケースはまずない。これが医者の世界の特徴である。

『大学病院の正体 手術、人事、教育、研究のすべて』書影『大学病院の正体 手術、人事、教育、研究のすべて』(松永正訓、中央公論新社)

 当然授業料を払うため、それまでに蓄えた貯金を切り崩すことになる。ぼくの場合は、2年の研修医生活のあとに大学院に行ったため、当時の貯金はおよそ100万円だった。そのため、大学院2年目で生活ができなくなり、奨学金を申請して受け取った。今の若手はそれよりかなりマシだろう。

 医療の世界では、4年間丸ごと病棟から離れると臨床の勘が鈍るという考え方があり、丸々4年間基礎研究室でサイエンスをやらせてくれる科はほとんどない。これは外科も内科も同様で、千葉大に限らずどこの大学病院でも同じである。

 ぼくは、若い時期は徹底的に科学を学ぶべきだと思う。4年間、全集中の気合いで研究に打ち込むべきで、臨床なんていくらでもあとから取り戻すことができるはずである。ところが、大学院生は、4年間のうち半分くらいの期間は病棟・外来の診療をやっているのが現状である。授業料を払いながら医師として働くなんて間違っていると思う。

 この部分に関しては、大改革が必要である。大学病院の指導者たちにはよく考えてもらいたい。