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「医学部2校分」に相当する若手医師が、わずか1年で美容医療領域に採用され、美容外科医数は6年間で2.5倍超へと急増した。初期研修直後に専門研修へ進まず美容を選ぶ「直美(ちょくび)」の台頭は、病院勤務医と美容クリニックの圧倒的な待遇格差が背景にある。しかしその本質は、医師を育成せず「捨て駒」のように消費するビジネスモデルと、全国6割超の医療圏で患者数が減少する日本医療そのものの構造的限界だ。特集『狂乱の美容医療 膨張市場の「闇」と錬金術』の#3で「直美」を生み出した待遇、教育、ビジネス、規制のひずみを暴く。(ジャーナリスト 星 良孝)
「医学部2校分」の若手が美容へ
急増する「直美」は本当にわがままなのか
医学部2校分に相当する若い医師が、わずか1年で美容領域へ向かった――。
2023年12月、日本医学会連合が厚生労働省へ提出した要望書には、医療界に衝撃を与える数字が記されていた。23年度、美容領域で「医学部2校分」に相当する新規医師の採用があり、十分な臨床修練を積まないまま、若手が保険診療の外へ大量に流れ出していると警鐘を鳴らしたのだ。
その後、一気に知られるようになったのが「直美(ちょくび)」という言葉だ。医学部卒業後、2年間の初期研修を終え、内科、外科、小児科、産婦人科などの専門研修へ進まず、そのまま美容医療へ向かう医師を指す。
美容医療への若い医師の流入は、一時的な現象ではない。
厚労省の統計によると、18~24年に医療施設で働く医師全体は6.1%増、形成外科医は21.8%増だった。一方、美容外科医は678人から1720人へ急増し、6年間で2.5倍を超えた。24年の1720人のうち1701人は病院ではなく診療所で働く。自由診療のクリニックが、若い医師を急速に吸収している実態が浮かぶ。
医学部や大学病院、行政、報道は、この動きに厳しい視線を向けてきた。十分な経験を積まず、健康な人の顔や体に施術をしてよいのか。医師不足に苦しむ保険診療を離れ、高収入の美容医療へ進んでよいのか。
いずれも無視できない問いとなる。だが、もう一つ問うべきことがある。
なぜ、これほど多くの若い医師が、同じ時期に、同じ方向へ動いたのか。「楽で稼げる仕事を選んだ」と片付けるだけで、「医学部2校分」という規模まで説明できるのか。
その背後には、病院の給与と働き方、専門研修の仕組み、美容医療の教育体制、行政の遅れ、将来の医療需要がある。若い医師は、制度と市場が並べた選択肢の中で、収入、生活、専門性、将来性を比べている。
直美は、経験の浅い医師が高収入を求めて美容医療へ進むだけの問題なのか。それとも、病院に残るより美容医療へ進む方が合理的に見える構造を、日本の医療界そのものがつくってきたのか――。
次ページで、20代の医師に迫られる非情な「格差」の実態と、美容医療界に共通の育成ルートが存在しない「資格乱立の闇」、そして医師免許を単なる「出店の道具」として消費する巨大ビジネスの裏側を暴く。








