今年7月――。高市政権の骨太の方針が発表された直後、長期金利の上昇や円安が進行したことを「骨太ショック」と呼ぶ声がありました。今回の骨太の方針が、「財政規律の後退」や「日銀の自主性の毀損」に繋がり、それが財政不安を招いているというのです。しかし、『何が日本経済を壊したのか』の著者であり、高市政権の経済ブレーンである会田卓司氏と松本賢氏は、この「骨太ショック」論は間違いだと指摘します。政策転換の真の意図を理解し、金融市場全体の動きを冷静に分析すれば、こうした批判の多くは根拠に乏しいというのです。本稿で詳しく論じていただいた。

高市政権の骨太の方針が“日本売り”を招いた!? この「骨太ショック」論が間違っている明らかな理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

高市政権の「骨太の方針」は画期的である

 7月に、高市政権下で初となる骨太の方針(「経済財政運営と改革の基本方針2026「責任ある積極財政」元年~日本の挑戦を起動する!~」)が閣議決定されました。

 骨太の方針とは、2001年以降、自民党政権が毎年発表している経済・財政政策の基本方針で、翌年度の予算編成などに向けた、非常に重要な指針となります。小泉政権下の郵政民営化をはじめとする構造改革、プライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の黒字化目標など、重要な政策方針が過去にもここに盛り込まれてきました。

 この骨太の方針の歴史のなかで、高市政権が打ち出した骨太の方針は画期的なものと言えます。なぜなら、高市政権の骨太の方針は、これまでとは根本的に異なる形で、日本経済が抱える課題と、その課題を乗り越え、「強い経済」を実現するための戦略を明確に示したからです。

 高市政権の骨太の方針は、日本経済の課題は、これまでの潜在成長率低下の原因となってきた、長年にわたる「未来への投資不足」の克服だと断定しました。これは、日本経済の停滞が、人口動態の悪化(少子高齢化)などによる避けられない宿命ではなく、国内投資の不足という意思の問題であることを意味します。

 宿命であれば変えられないものの、意志の問題であれば変えることができます。
 不足している未来への投資を拡大させるため、経済安全保障を念頭に置いた「危機管理投資」や勝ち筋の産業を伸ばす「成長投資」を中心に、できるだけ早期に実質1%超、名目で3%超の経済成長率を定着させ、さらに引き上げていくことを掲げました。

投資の大競争時代へ――経済政策のコペルニクス的転回

 特に強調しているのが、グローバルな経済政策の潮流の変化です。
 これまでの効率重視で市場に委ねるだけの新自由主義的な政策ではなく、官民連携の大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策を推進し、投資の大競争の時代への転換に対応する必要性を述べています。

 そして、こうした経済的課題と潮流の変化に対処してくため、策定されたのが、日本成長戦略です。日本成長戦略では、17の戦略分野を中心に、2040年度まで累計で370兆円超の官民投資を目指します。

 また、予算編成制度にも改革が施されます。
 第一に、恒常的な施策であるのに当初予算に盛り込まず、毎年補正予算で計上することが、近年の予算編成では常態化していましたが、それを当初予算で措置することになりました。補正予算に計上された場合、民間事業者は翌年度以降もその事業に対する予算措置が継続されるという確信がもてず(予見可能性が低い)、その事業を受注するために積極的な投資をすることを躊躇するなどといった問題がありました。

 第二に、通常の歳出とは別の「『強く豊かな日本』投資枠』を日本成長戦略の複数年度にわたる計画に基づいて設定します。

 これらの改革によって、民間事業者の予見可能性を高めることで、民間事業者の積極的な投資を後押しすることを目指します。

「緊縮型」から「成長型」へ財政運営を切り替える

 こうした経済財政運営の在り方の大きな変化を、今回の骨太の方針では「コペルニクス的転回」と表現しました。天動説から地動説への発想の転換、つまり財政運営目標の根本的な転換です。

 これまでの日本の財政政策は、「財政収支は黒字でなければならない」という緊縮志向に縛られてきました。

 その象徴が、単年度のプライマリーバランス(PB)黒字化目標です。PB黒字化とは、税収の範囲内で政府支出を収めることを意味し、将来の成長のために必要な投資さえも制限してしまいます。しかし投資は、将来の便益が利払い負担を上回るのであれば、国債発行で資金調達しても問題ありません。

 そこで、高市政権の骨太の方針により、財政規律目標が転換されました。従来のPB黒字化から、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下へと中核が移ります。
 これまでは目標年度でのPB黒字化時期を機械的に追うため、景気が悪い状況でも政府支出を抑制してしまいました。そして、将来の成長や経済安全保障の強化に必要な投資も抑制されてきました。これらの弊害を取り除くために、今回の変更では、PBを複数年度で管理することになり、景気変動や危機管理・成長投資の必要性に応じて、一時的な悪化を許容する方針を打ち出したのです。

 こうした短期的な収支バランスより、中長期的な経済成長と財政の持続可能性を重視する考え方への転換は、「緊縮型」から「成長型」財政運営へのコペルニクス的転換にほかなりません。この新たな経済財政運営方針や日本成長戦略は、2027年度の予算編成から反映されていくことになります。

今回の「骨太の方針」は唐突に出されたものではない

 ここまで説明してきたように、長年にわたる経済停滞から脱却し、潜在成長率を押し上げるとともに、経済安全保障を強化するという強い意志のもと、高市政権が打ち出した今回の骨太の方針は、日本の経済政策の大きな転換を印象付けるものとなりました。

 従来の財政再建を優先する政策運営から、官民連携による戦略投資と産業政策を通じて経済成長を実現する政策運営への転換を明確にしたという意味で、まさしく新たな経済政策の「元年」と呼ぶにふさわしい内容です。

 もっとも、こうした政策方針は、今回の骨太の方針で突然打ち出されたものではありません。高市首相は、2025年10月4日の自民党総裁選の段階、もしくはそれよりも前から、責任ある積極財政による国内投資の拡大や、経済成長を重視した政策運営への転換を一貫して主張してきました。

 政権発足後も、その基本的な考え方を繰り返し発信しており、今回の骨太の方針は、これまで示してきた政策理念を具体的な政府方針として明文化したものと位置付けられます。したがって、高市政権の発信を継続的に追い、その政策意図を十分に理解していれば、今回の骨太の方針に大きなサプライズはなかったはずです。

 しかし、多くの金融市場関係者やメディアは、必ずしもそのようには受け止めなかったようです。