すべてのステークホルダーのために
レスポンシブル・カンパニーが負う責任

 パタゴニア創業当時は40億人だった地球の人口はいまや70億人に達し、2050年ごろには90億人に膨れ上がると予測されています。人類の資源消費スピードは、1960年ごろは地球が耐えられる限界の半分ほどだったといわれます。それが87年には限界を突破。今日では地球が負担できるスピードの1.5倍に達しているそうです。つまり私たちは、元に戻せるよりも多くの資源を消費し、守る自然よりも損なう自然のほうが大きい経済活動を続けているわけです。

 このままでは手遅れになる――。イヴォンもヴィンセントも、そしてパタゴニア社も強い危機感を持っています。自然の再生する力や豊かな生命をはぐくむ力を阻害せずに衣食住をまかない、健全な地球を取り戻すためには、私たち自身が大きな変化をいますぐ実現しなければならない。多くの企業は責任ある行動を取らなければならない……そう訴えています。

 今後、顧客の要求はエスカレートし、環境規制は強化され、資源は余裕がなくなり価格が上昇し、投資家の目も厳しくなっていく。そのなかで、あらゆる側面で事業責任を全うしようとする企業が増えるだろう。正しいことだからするという面もあるが、そうしなければ成功できなくなるからだ。そのような企業と競うためには、自社も同じくらいに責任ある行動を取らなければならない。(80ページ)

 責任ある企業とは事業の健全性を犠牲にするのではなく、それを改善しつつ、周囲に及ぼす危害を戦略的に減らそうとしているところであり、一〇〇%はなく、あくまで程度の問題である。
 これをわかりやすくまとめることはできるのだろうか。
 科学系ジャーナリスト、ダニエル・ゴールマンが書いた『エコを選ぶ力――賢い消費者と透明な社会』(早川書房)では、環境破壊を減らせるシンプルながらとても包括的なルールが三つ、提案されている――「自分の環境負荷を知る、改善を心がける、得た知識を共有する」だ。これは、大企業から零細企業まで、これから活動を始めるところも続けていくところも、すべてが利用できるルールである。(82ページ)

 責任ある企業は株主に対してのみ責任を負うのではなく、ステークホルダーと呼ばれる利害関係者に対しても責任を負わなければなりません。パタゴニア社は株主、社員、顧客、地域社会、自然という5種類の利害関係者を想定しており、それぞれに対する事業責任について本書で持論を展開しています。また、事業の健全性を高めつつ社会や環境への責任を全うするためになすべきことが、巻末付録にまとめられています。このチェックリストにはかなりのスペースが割かれ、利害関係者ごとに実用的な項目がリストアップされています(チェックリストはパタゴニアのウェブサイトから無償でダウンロードできます)。

巻末に収録されているチェックリスト。企業が果たすべき幅広い分野での責任を、250を超える項目にまとめています。
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 人は、正しいことをすると、もっと正しいことをしようとする。
社員に知恵と創造力を発揮してもらい、害悪となることを減らそう、特に、百害あって一利なしのことを減らそうとする会社は、必ず恩恵を手にできる。エネルギーや水、廃棄物のコストは、いま、すごい勢いで上がりつつあるが、環境負荷を減らそうとすれば、一緒にそのようなコストも減らすことができる。(186ページ)