前回の第93回記事では、コーズマーケティングの限界について述べた。結論としては、いまの生活者の価値観とマーケティングをどのようにエンゲージメントさせるかが重要だと書いたが、では、いまの生活者の価値観とはどのようなものなのだろう。
これについてはちょうど8月に、野村総合研究所が詳細なレポートを発表している。『なぜ、日本人はモノを買わないのか?』(東洋経済新報社刊)である。これは、1万人を対象として2012年に行なった大規模調査のレポートであり、一般に入手できる大規模調査データとしては最新のものだと考えられる。今回はこのレポートを元に、いまの日本の生活者がどのような消費の価値観を持っているのか、ソーシャルマーケティングにどのように活かせるのか、つまり新しいマーケティングとはどのようなものなのかを考えてみたい。
バブル世代の価値観は
完全に「過去のもの」へ
詳細は同書を読んでもらうほかはないが、ハイライトについては第1章で下記6つのコンセプトにまとめられている。
・消費者は情報披露している
・将来への不安から高まる生活防衛意識
・「こだわり」の強さが生むメリハリ消費
・お金を「多く使う」より「善く使いたい」
・広がるシェア文化
・「絆」「つながり」意識の台頭
ソーシャルマーケシングに関心がある人間にとって気になるのはやはり「お金を善く使いたい」「絆やつながり意識の台頭」であり、「広がるシェア文化」だろう。ハイライトとなる消費傾向の6つのコンセプトのうち、半分が広い意味で社会貢献に関連するようになっている。
同調査に拠れば、「高い車に乗り、豪華な家に住む」ことを志向する人はたったの4%。「高級な宝飾品やブランド品を購入したり、身につけたりする」志向は2%しかない。ようするにバブル世代の価値観は完全に「過去のもの」になってしまったということだ。
「エシカル消費」志向も強まっているようで、「社会貢献意識に関するWEBアンケート」の調査結果(N=3000)でも、「募金・お金の寄付を行った」=69%、「売り上げの一部が寄付される商品を購入した」=46%、などとなっている。
若者の社会貢献意識の高まりも結果として出ていて、「積極的に社会のために貢献したい」と考える10代の若者は、2009年には73%だったが、2012年には83%へと上昇している。ちなみに、同調査による20代の「社会貢献したいと考える若者比率」は73%だが、僕が大学生チームと共に行った「若い女子の社会貢献比率」(実際にボランティアや寄付を行なった女子の比率)は、実に88%だった(第92回記事より)。
いずれにせよ、若者の社会貢献意識は非常に高く、さらに上昇傾向にあるといえる。ちなみに、野村総研の調査では、高齢者層の社会貢献意識は下がっているが、それでも60代で77%(2012年)と、高い比率にある。