資本移動の自由には反対
金融危機の原因だと主張

 ただし、バグワティは「資本の自由な移動」については猛烈に反対してきました。本書でもこう書いています。

 反グローバリズム主義の扇動者たちは、推測しがたい理由から、グローバル化は巨大な概念か現象の塊のようなもので、一つ一つの要素に賛成すれば必ず他のすべての要素にも賛成しているととらえている。すなわち、自由貿易に賛成する者は、自由な短期資本移動、自由な海外直接投資、自由な移民、自由恋愛など自由と名のつくものにはすべて賛成に違いないと考えているようだ。(略)この論理によれば、重大な国際金融危機はすべて自由貿易に反対する理由となるのだ。(11ページ)

 資本の自由な移動と自由貿易とはまったく異なった概念であり、「いっしょにするな」と言いたいのです。短期資本移動の自由が大きな国際金融危機を招いたことは何度も繰り返されてきました。

 バグワティはかつて、「資本の神話」という有名な論文で痛烈な金融ネットワーク批判を書いています。この論文は「フォーリン・アフェアーズ」(1998年5/6月号)に掲載されました。バグワティはこの中で、グローバルな資本移動の自由を推進してきたアメリカの金融ネットワークを「ウォール街=財務省複合体」と名付け、「彼らは米国金融界の利益イコール世界の利益だと考えている」と指弾し、「論理の力に頼るのであれば、採るべき方向は正反対、つまり資本の流れに規制を設ける方向である」、と結論づけています。『週刊ダイヤモンド』(1998年5月23日号)に訳出されていますので、合わせてお読みください。腹の座った自由主義者、バグワティの視野の広い考え方が理解できるはずです。

(次回は12月12日更新予定です。)


◇今回の書籍 36/100冊目
『自由貿易への道――グローバル化時代の貿易システムを求めて』

国内産業を守ろうとする保護主義、グローバル化が貧富の差をもたらすと主張する反グローバル主義。本書ではそれらの間違いを痛烈に指摘し、自由貿易こそが真に貿易国の厚生を高めることを証明する。現在、世界最高の自由貿易論者として、またP.クルーグマンの師としても知られるバグワティ教授の最新論考。

ジャグディッシュ・バグワティ著 北村行伸/妹尾美起訳

定価(税込)2,100円

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