行動観察で人の「経験」を科学する
――2つ目の「サービスサイエンス」の行動観察の事例としてはどういったものがありますか?
松波 たとえば、飲食業の店舗で観察を行って接客サービスを向上させたり、営業マンを観察して優秀営業マンのノウハウを育成に活用したり、といったプロジェクトを実施しています。
――飲食業の接客サービスには、どのように取り組まれたのでしょうか?
松波 店舗での接客サービスをまず行動観察しました。そして、観察の結果をもとに、その飲食チェーンの上層部から現場の人まで集まってもらって、徹底的にディスカッションして、サービスのスタンダードを作りました。マニュアルはすでにありましたが、「何のためにそのサービスをするのか」まで踏み込んで議論することで、接客サービスの方向性が明確になりました。
――お話をうかがっていると、行動観察の応用範囲はかなり広いという印象を受けます。
松波 おっしゃる通りです。行動観察では「人」を中心に考えます。どうすれば人に喜んでもらえるのか、どうすれば人がモチベーション高く仕事ができるのか、どうすれば人が“ありたい自分”になれるのか。ビジネスでも日常生活でも、最後はすべて「人」に帰着します。そのため、私たちは「人の経験」を科学しよう、と考えています。人を中心に考えるからこそ、応用範囲が広いのだと思います。
――「人の経験」を科学する、とはどういうことでしょうか?
松波 人は、日常生活や仕事を通じて、さまざまな「経験」をしています。電車の中でスマートフォンを見るのも経験ですし、仕事で営業に回るのも経験です。しかし、経験とはデータとして残りにくいものです。それは、経験は、その“場”で生まれて、その“場”で消えてしまうものだからです。似たような経験や特異な経験をしても、情報になりにくいので共有されにくい。しかし、そこにこそ、新たな付加価値を生むニーズや、仕事で共有されるべきノウハウがあるのです。
――アンケートと比較すると、調査対象とする人数がかなり少ないですね。
松波 その通りです。なぜなら、行動観察は「検証するため」というよりも、「新たな仮説を生むため」に実施するからです。リフレームを起こすためには、起こっている事実を「どう解釈するか」「どういう枠組みでとらえるか」が重要となります。そのために、対象者数を万人単位で調査するというより、何人かを深く調べる、というアプローチを取ります。そして、リフレームがあってはじめて、イノベーションを起こすことができると考えています。
第3回では、イノベーションを起こすために何が必要なのか、が語られる。次回更新は、12月27日(金)を予定。
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