これまでのように、アンケート調査やグループインタビューをもとに製品・サービスを開発しても、常識のワクを超えることはできない。なぜなら、真の課題やニーズとは、言葉にできない、本人すらも気づいていないものだからである。そうした課題に立ち向かう新手法として、「行動観察」が大きな注目を浴びている。
行動観察とは何か?なぜ今、必要とされるのか?行動観察の第一人者である大阪ガス行動観察研究所所長の松波晴人氏が、その魅力と真髄を語る。

 行動観察とは何か?

――ビジネス雑誌や新聞、テレビなど、多くのメディアで「行動観察」が取り上げられています。

松波 行動観察について注目が増しているのは、大変ありがたいことです。また、現状のビジネスにおいて、それだけ必要とされているのだと思います。この8年間で、行動観察研究所が取り扱った行動観察のプロジェクトは、500件を超えました。

――そもそも、行動観察とは何なのでしょうか?

松波晴人(まつなみ・はるひと)
大阪ガス行動観察研究所所長。株式会社エルネット技術顧問。サービス学会監事。
1966年、大阪府生まれ。神戸大学工学部環境計画学科卒業、神戸大学大学院工学研究科修士課程修了後、1992年に大阪ガス株式会社入社。
基盤研究所に配属され、生理心理学、人間工学関係の研究活動に従事。アメリカ・コーネル大学大学院にて修士号(Master of Science)取得ののち、和歌山大学にて博士号(工学)を取得。
2005年、行動観察ビジネスを開始。2009年に大阪ガス行動観察研究所を設立すると所長に就任し、現在に至る。
著書に『「行動観察」の基本』(ダイヤモンド社)、『ビジネスマンのための「行動観察」入門』(講談社)、編著書に『ヒット商品を生む 観察工学』(共立出版)がある。

松波 ごくごく単純に言うと、「“場”に足をはこび、そこでの人間の行動をつぶさに観察した上でインサイト(洞察)を得て、そのインサイトからソリューションを生み出し、実行していく方法論」です。ステップとしては、「観察」→「分析」→「ソリューション」という順に行います。

 最初のステップの「観察」では、必ず“場”に足をはこんで、“場”での人間の行動をつぶさに観察します。次のステップ「分析」では、“場”で得た膨大な情報を、人間に関する知見(心理学、人間工学、エスノグラフィーなど)を駆使することで、解釈することを試みます。最後の「ソリューション」においては、「分析」で得たインサイト(洞察)をもとに、ソリューションを考え、実行します。

――「“場”に足をはこぶ」というのは、現場に行くということですか?

松波 そうです。たとえば、主婦のニーズを調べるのなら、主婦の行動の“場”に行って主婦と一緒に過ごして、日常生活における行動や思いを深く知る。サービスの現場をもっと良くするためには、サービスの“場”に行って実態を深く理解して、本質的な課題を見つけ出して、そこに手を打っていく。放置自転車の問題を解決しようと思ったら、自転車が放置されている“場”に足をはこんで、どのように自転車が置かれていくのか、どのような場所に放置されやすいかなど、インサイト(洞察)を得ようとするわけです。

――行動観察は、アンケートやインタビューといった、これまでの方法論とは何が違うのでしょうか?

松波 アンケートやインタビューは重要な方法論ですし、今後も重要であり続けるのは間違いないのですが、限界も見えてきました。

――それはどんな限界ですか?

行動観察は言葉にできない潜在をとらえる
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松波 アンケートやインタビューで得られるのは、「本人が言語化できる情報」です。つまり、頭の中ですでに言葉として準備されている情報です。しかし、人は自分の行動や経験をすべて自分で把握しているわけではありません。逆に、把握していない行動のほうが圧倒的に多いのです。つまり、言葉にできる部分が氷山の水面より上に表出している部分だとすれば、言葉にできない部分が、水面より下にずいぶんとあるわけです。行動観察は、その水面より下に潜在していることをとらえます。