多くの引きこもり当事者たちは「外に出る理由」を探している。
これまで引きこもり状態にあった孤立無業者たちにとって、自分の住む地域には、行きたいと思えるような魅力ある場所がほとんどない。当事者たちと話をしていると、そんな嘆きをよく耳にする。
だったら、自ら「外に出る理由」を作ってしまえばいい。2014年は、そうした本人たちのそれぞれの思いにもとづく新しい動きが、各地で始まろうとしている。
「自分の住む地域にいると
外に出る理由がないんです」
昨年12月1日、東京都内で開かれた『ひきこもり問題フューチャーセッション「庵―IORI-」』において、40歳代男性のYさんに出会った。
Yさんが住んでいるのは、都心から電車に乗って1時間半以上もかかる、ひなびた都市の住宅地。そんな地方の街で父親とともに暮らしている。
昨年8月、当連載記事を見て、「庵―IORI-」に参加した。
「ひきこもり大学って、どんなことをやるんだろう。これから何が行われるんだろう。そんな期待を感じたんです」
Yさんは、偶数月の第1日曜日に開催されている「庵―IORI-」と、やはり当連載で紹介した2ヵ月に1度の「中高年人材センター」が開かれる日だけ、わざわざ交通費をかけて東京に出てくる。
何気なく「開催日以外、ふだんは何をされているんですか?」と聞いてみた。すると、Yさんは、こんなことを教えてくれた。
「自分の住む地域にいると、外に出る理由がないんです」
この日、「庵―IORI-」に参加していた首都圏に住む別の男性も、これまでずっと引きこもっていたが、当連載の記事を見て「(会場の最寄駅の)中目黒には昔、家族と一緒に来たことがあったので…」、勇気を振り絞って、久しぶりに外に出てきたと話していた。
そんな「昔、来たことがあるから…」というくらいの些細な理由でさえも、人は外に出ようと思う「きっかけ」になるのだと知った。
Yさんは、ずっと父親の会社を手伝っていたものの、リーマンショックを契機に、会社の経営が行き詰まり、従業員たちも全員解雇。以来、収入が途絶えた。
いまは働いていたときの貯蓄と保険の解約金で生活。「今年1年くらいは何とか持ちそう」な状況だという。