観察対象が複雑で、偶発的で、前提条件も変わる

 これもあまり単純化しすぎてしまうといろいろな人に怒られてしまうのですが、拙著『領域を超える経営学』の第1章(39ページ)では、以下のような説明をしています。

「経営学は、絶えず変化し続ける社会、経済、経営環境、つまり様々な複雑な要素が絡み合った現実世界をそのまま切り取り、それが刻々と移り変わる動態を分析して理論化することが期待される学問領域でもあるのです」

「経営学が探求する対象である経営環境と経営行動は多様であり、刻々と移り変わっています。経営という行為に作用し得る要因は無数に存在しますが、それを網羅的に捉えることは極めて困難であり、できる限り説明力の高い理論的枠組で、言わば妥協する必要があります。そして、組織間の関係や文化など、数値化しにくい、測定しにくい要因をも考慮することが求められるのです」

 再現性を担保できる、つまり第三者が同様の条件下で法則性を確かめることが困難であり、また数字や科学的な数値で表現しがたい、捉えにくい事象を扱うという難しさを抱えているのです。

 したがって、どうしても自然科学と比較すれば、「内部妥当性」(研究で発見したある法則性が、その法則性を発見した特定の事例に本当に実際に存在する確率)も、「外部妥当性」(研究で発見したある法則性が、その法則性を発見した特定の事例以外にも当てはまる確率)も低い研究成果が多くなる傾向があるであろうことは、否定しきれません。

 むろん、経営学の中にも、実験室的環境を用意して再現性を担保したり、複雑な要因を単純化してモデル構築を行う方法論によって、妥当性を担保することは可能です。

 しかし、もともとの観察対象が複雑であり、偶発的であり、前提条件が絶えず変わりゆくことを背景として、バシッと決まるモデルや、単純明快な主張も数多く存在する例外に対して、十分な説明力を持てないことが多々あるのです。