「科学的手法」では説明しきれない経営学の難しさ

 まずは、自然科学(例:物理学、化学、材料工学)と社会科学(例:政治学、民俗学、経営学)の違いから考えてみたいと思います。

 自然科学と社会科学が異なる第一の点は、事実としての明確な証拠を提供することが、自然科学に比較して、社会科学ではより難しいということです。

 化学であれば「Xにα処理を施したら、化合物Xαができたよ」とか、材料工学であれば「YとZを混ぜて、754度で10分加熱したらYZができた」といったように、最終的に何ができたかの証拠も残りますし、またその経緯も極めて正確に記録することが可能です。

 したがって、その研究報告を耳にした別の人が、本当にそれが起こるかどうかを検証することができます。

 たとえば、何人かの第三者が「Xにα処理を施したら、本当に化合物Zαができた」と報告するようになれば、「そうか、やはりXにα処理をしたら化合物Zαができる」のは事実だなと、客観的事実、証拠をもとにした共通認識が広がるのです。

 では、社会科学の一種である、経営学ではどうでしょうか。

 もちろん、繰り返される真理は経営にも存在し得ます。しかし、これはすべての社会科学に共通して言えることですが、人間という不完全な主体の集合体が織り成す社会的な行為は、必然のみならず、偶然の積み重ねによっても左右されています。

 実際のところ、とくに少数の主体の、しかも社会的な行動を扱う経営学は、「科学的手法」だけでは説明しがたい複雑性をも扱わなければならない、という困難さを抱えているのです。