プロジェクト・マネジメントの経験が学位取得に活きる
安宅 でもね、実はもう1つ理由があって、アカデミアに進むのであれば、アカデミアに独特な手法があることを、学位を取ることで学んだほうがいいと思ったから。病的なまでにコントロールを取るとか、引用はどうあるべきか、とかね。
琴坂 剽窃(ひょうせつ)はかなりのホットトピックですよね(笑)。
安宅 期せずして(笑)。研究とは、巨人の肩に乗るようにして成り立っているものなので。
琴坂 実はつい先日、偶然にも、「巨人の肩に乗る」に関連したトピックで記事を書きました。そういえば、安宅さんは、マッキンゼーに入る前から、サイエンティストとしてのトレーニングをある程度積まれているわけですよね。その後、また科学の世界に戻っています。コンサルタントの経験の中で、博士課程で役に立ったことはありますか?
安宅 ありますよ。僕がアメリカに行く段階で、マッキンゼーでは実質的にマネジャーロールをやっていました。すると、プロジェクト・マネジメントはある程度一通りできるようになっているんですよ。その経験は、学位を取るときにとても役立ちましたね。
アメリカの場合、自分で研究テーマを決めて、そのテーマに合わせてコミッティーを組んで、アドバイザーと相談しながら教授も自分で選びます。コミッティーと研究テーマを握って、何ができればバリューなのかを決定して、アプローチも議論して、自分のペースで突っ込んでいけるのです。
琴坂 自分で決めていくということですね。
安宅 そう、何が意味のあるアウトプットなのかの定義もそこの場所で一緒に決めます。これは、クライアントとのプロジェクト・マネジメントとあまり変わらない。
琴坂 教授陣は、企業でいうとアドバイザリーボードに近い存在ですか?
安宅 そうだね。そうやって使い倒すことが正しいと結果論としては思うけど、自分の周りではそうやってはいない人が大半だった。僕は、これなら答えが出せて、相当なインパクトがある、一発逆転が可能だろうというテーマをコミッティーの面々と相談しつつ設定しました。でも、かなり尖ったテーマだったので、誰もうまくいくかはわからない。失敗する可能性も85%くらいあったと思うよ。
琴坂 そんなに高かったんですか?
安宅 はい。でも、僕はそれに失敗しても学位もらえるという約束をもらっていたんです。
琴坂 え?どういうことですか?
安宅 とても失敗するリスクが高いけど、当たればサイエンスへの貢献、意味合いが大きいというテーマを選んだのです。「50のアイデアを試して、それでもダメならお前には学位をやる」と、そこまで関係者、つまり自分のコミッティーと握ってPh.D.取得のための研究を始めました。
裏を返せば、それほどリスクが高かったんですよ。たまたま13個目くらいで当たりましたけど、50の候補を数年間でこなせる、という自信を持てるようなプランは作りました。そうすれば、5年以内に学位は取れるだろうと思って。