コンサルタントも、学者も、体系的な訓練は欠かせない
琴坂 私はマッキンゼーを退職した後に博士課程に進み、安宅さんもマッキンゼーを経験されたあとに博士課程に行かれています。
安宅 そうだね。…そういえば、「学位を取ったほうがいいよ」と随分と言った記憶があります。いくらでも推薦状書くからって。
琴坂 そのころ、自分はどんな風に見えていましたか?
安宅 すごく頭がいい。それから、研究をやりたがっていたよね、明らかに。ただ、研究者になる力はあると思ったけど、体系的に訓練された経験がなかった。そうであるなら、その経験はどこかで突っ込んだほうがいいな、と。
バックグラウンドが特殊だよね。理系でも文系でもないSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の出身だし、自分で事業をやっていたし。でも、それはアカデミアに必要な訓練とは必ずしも関係ないものだから、アカデミックに生きてこうと思うと、どこかでベースを叩き込まないといけないわけです。
琴坂 大学時代は、泥臭い現場の実務をずっとやっていました。おっしゃる通りで、腰を据えて、まさに体系的に学問を学ぶことが不足していたと思います。当時から経営に興味はあったし、ゼミにも参加して、いくつか本も読んだのですが、それがどういう意味を持つのか深く考える時間はありませんでした。
むしろ、本を読んで学んだことと、自分がやっていることのギャップが激しすぎました。自分が必死で目先の10万円を稼いでいるところに、「経営戦略はポジショニングが大切だ」と言われてもピンとこない。経営を理解しないままに卒業してしまったという感じはありますね。
安宅 なるほど。僕の場合は、激しくサイエンスの世界にもまれたあとに入ってきたので、状況がだいぶ違っていたのかも。もともと「分析そのものの何たるか」は叩き込まれていたので、分析そのもののベースになるところでは、それほど大きな苦労はしませんでした。
話は戻るけれど、琴坂さんに、アカデミックに進むにしても、そうでないにしても、学位を取れと言った理由にはそれ、つまり、学問的な分析のトレーニングを体系的に受けたほうがいいかもしれない、と思ったことが1つかな。