むろん、医師たちは導入を歓迎した。しかし、問題は投資金額だった。国立大学病院のみならず多くの病院は、IT投資を積極的にできる経営環境にはない。「コストセンターという認識だから、IT投資額は減らせという指令も出るが、どうにか現状維持に抑えている」(黒田教授)。価格についての交渉は簡単ではなかったというが、現場の医師たちからの支持に加え、京大病院はデータに基づく医療研究、つまり「データサイエンス」に力を入れる方針を打ち出している。こうしたバックグラウンドがあって、どうにか導入にこぎつけた。

在宅医療や薬局との連携構想も
ITが可能にする医療ワークフロー改革

 今回導入したのはプリントシステムだが、今後の活用の可能性は幅広い。たとえば、糖尿病の患者に医師が勧める料理のレシピページ。クラウドプリンティングなら、どのページがプリントされたか、データが蓄積されるから、まとめてプリントアウトして小冊子として患者に配ることができる。

 また、セキュアな環境でデジタル情報を外部とやり取りできれば、さまざまな仕事の効率が上がる。たとえば高齢者の増加に伴って必要性の増す在宅医療の現場でも、介護士が先に血圧や体温などのバイタルチェックをしておいて、医師の持つタブレット端末にあらかじめ転送しておけば、人件費の高い医師の作業を減らすことができ、効率が増す。

 コニカミノルタの市村雄二・マーケティング本部副本部長は「ITシステム導入の要点は情報の有効活用。仕事のしかた(ワークフロー)の効率化につなげるために現在、在宅介護や薬局との連携など、さまざまな領域での活用方法を一緒に検討している 」と話す。システム導入はもちろんだが、導入後の活用についても、ベンダーと二人三脚で構想を広げていける関係を築けるかどうかも、IT導入の成否に関わってくるだろう。

 病院のみならず、国家機密を扱ったり、研究開発をする企業でもセキュリティは大きな課題だ。システムをガチガチにすれば業務に支障が出る。さりとて、オープンにしすぎれば、たちまちウェブの世界に蔓延する危険と隣り合わせになってしまう。セキュリティ対策をしつつ、どう社内のデータを有効に活用し、業務フローの改善にまでつなげるか。巨額投資に上ることが少なくないIT投資だけに、一石二鳥以上の効果を狙える戦略を練らなければ、成功とは言えない。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)