国際機関の指摘で
把握できる日本の問題
こんにちは鈴木寛です。
みなさんは国連開発計画(UNDP)をご存じでしょうか? プロジェクトの名称のようですが、ニューヨークに本部を持つ国連の専門機関です。177の国・地域で、貧困の削減や紛争予防、民主的統治の推進、環境保全・エネルギー開発、エイズ対策、女性の活躍推進などに取り組んでいます。こうした問題を突き詰めると、すべて「人間」の問題に行き着くわけですが、UNDPでは1990年から毎年「人間開発報告書」を発行し、各国の社会や経済の発展ぶりを指標化しています。
報告書の話を突然書いたのは、きっかけがあります。2014年版報告書は、この7月24日に発表され、安倍総理も、青山にある国際連合大学本部でUNDPのヘレン・クラーク総裁による表敬を受けました。概要の日本語版がUNDP日本事務所のホームページでも読むことができます。グローバル企業、それも途上国を相手にお仕事をされている方は、UNDPの課題について実感をお持ちと思いますが、豊かな日本でずっと過ごしている方には、グローバル開発等の話題を持ち出されても何か縁遠い印象があるかもしれません。
しかし、報告書は当然のことながら日本などの先進国に対しても、災害や環境などについて、その国の人々が置かれた状況を分析してくれます。つまり、日本のなかに居続けていると「常識」と思って見落としている問題があったとして、それが海外からみて「非常識」であれば、こういう国際機関の報告書は、自分の国の課題に気づかせてくれるきっかけになります。たとえば、今回でいえば、ライフサイクルによる脆弱性や子どもへの投資の重要性など、日本にも参考になることが多々あります。
「逆境力」を巡る2つの解釈
今年の報告書は新聞各紙でも報道されています。ただ、グーグルニュースで検索してみると、共同通信の配信記事(7月24日・msn産経ニュース)をはじめとして、国民生活の豊かさを示す人間開発指数(HDI)の各国比較で、日本が前年より1つランクを落として17位だったという記事を多く見かけます。ランキングの話はわかりやすく、見出しも含めてそちらに焦点が当てられがちです。それはそれで大切なのですが、HDIが前年と比べて下がったか、上がったかに終始しているだけでは、何が問題なのか、UNDPが、どういうメッセージを発したのか、今回の報告書の本質を明らかに見誤ってしまします。
2014年版の人間開発報告書の主なテーマは、「バルネラビリティ」(脆弱性)と「レジリエンス」(強靭性)です。東日本大震災に代表されるように、大きな自然災害に対し、人間とは脆いことを思い知らされます。同時に、それをいかに乗り越えていくかという問題提起です。