組織が個人の成果を妨げる4つの現実とは?

 ドラッカーは、個人は仕事の成果を妨げる4つの現実に直面していると述べています。

(1)時間をすべて他人に取られてしまうこと

 組織に所属して、ある程度の地位にあれば時間はすべて他人に取られてしまいます。考える時間、まとまった業務をこなす時間を確保できないことが多いのです。

(2)日常業務に取り囲まれていること

 自ら状況を改善しない限り、誰もが日常業務に追われ続ける。さらに悪いことは、日常業務は仕事の本当の問題点を教えてくれる類のものではないことです。日常の仕事の流れにまかせると、貢献と成果に向けて働くことから離れ、いたずらに知識や能力を浪費する危険性があるのです。

(3)組織で働いていること(自らの貢献を利用してもらう必要がある)

 組織で働くと、あなた自身の能力を誰かに活用してもらえたときのみ、成果をあげることができます。逆に言えば、組織内の他人の能力を活用しなければ、私たちも成果を出せないのです。

(4)組織の内なる世界にいること(外の世界の現実と離れている)

 組織に属すると、どうしても内側への関心が強くなり、成果をあげる対象である「外の世界の現実」に疎くなります。たいていの場合、組織の中から外を眺めても、厚くゆがんだレンズを通して景色を眺めるようなことになるのです。

 組織にいれば、そのまま成果につながるわけではなく、むしろ組織に所属しているからこそ、成果を妨げられる環境にあることを、まず私たちは理解すべきなのです。

これほどのデメリットがあるのに、人はなぜ組織に属するのか?

「組織」という構造に、これほどマイナス要因がついて回るなら、なぜ社会に無数の組織があり、尊重されているのか疑問です。ドラッカーはその理由を、こう述べています。

「人類の歴史は、いかなる分野においても、豊富にいるのは無能な人のほうであることを示している。われわれはせいぜい、一つの分野に優れた能力をもつ人を組織に入れられるだけである。一つの分野に優れた人といえども、他の分野については並みの能力しかもたない」(上田惇生訳『経営者の条件』より)

 あらゆる分野で天才的な才能を持つ人はいないことで、一つの分野で優秀な人を集めて、強みを成果につなげ、人の弱みを問題化させないことで成立しているのが組織なのです。経理的な才能がありながらも内気な人は、社長としては活動できませんが、組織の経理担当なら手腕を振るえます。人の強みを集めて各分野を担当させる組織は、人の持つ強みを活用し、付随する弱みを無効化している存在なのです。

 個人の側から考えるなら、自らの強みにスポットライトを当て、最大限発揮させてくれる組織こそ優れた存在といえます。人は誰でも苦手なことがありますが、それを補う他者が組織にいることで、双方が恩恵を受けているのです。