「人間関係に優れた才能をもつからといって、よい人間関係がもてるわけではない。自らの仕事や人との関係において、貢献に焦点を合わせることにより、初めてよい人間関係がもてる。こうして、人間関係が生産的なものになる。まさに生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である」(『プロフェッショナルの条件』)
ドラッカーは、同じことを、角度を変えてこう言う。「仕事に焦点を合わせた関係において成果が何もなければ、温かな会話や感情も無意味である。言い繕いにすぎない。逆に、関係者全員にとって成果をもたらす関係であるならば、失礼な言葉があっても人間関係を壊すことはない」。
大事なのは成果である。そして成果を上げる人間関係に必要なものが、コミュニケーション、チームワーク、自己啓発、人材育成の四つである。
まず第1に、貢献に焦点を合わせるならば、コミュニケーションが驚くほど容易になる。あなたが貢献するために私は何を貢献すべきかを考えることが、組織におけるコミュニケーションのすべてだからである。
第2に、貢献に焦点を合わせるならば、チームワークも驚くほど容易になる。これからの知識を中心とする組織では、成果を上げる仕事は、多様な知識を持つ人たちからなるチームによって行われる。彼らは、フォーマルな組織構造よりも、状況の論理や仕事の要求に従って、貢献に向けて働く。
第3に、貢献に焦点を合わせるならば、知識社会における最大の自己責任たる自己啓発も、驚くほど容易になる。「組織の業績に対する自らの最も重要な貢献は何か」を考えることこそが、自らにはいかなる自己啓発が求められているかを考えることだからである。
第4に、貢献に焦点を合わせるならば、部下、同僚、上司を問わず、他の人の自己啓発、つまり人材育成も、驚くほど容易になる。貢献の必要に根ざした基準を設定することになるからである。
こうして貢献を考えるとき、人間関係にとどまることなく、自らの成長と自らとともに働く人たちの成長への関心が急速に増大する。
「知識労働者は、自らに課される要求に応じて成長する。自らが業績や成果とみなすものに従って成長する」(『プロフェッショナルの条件』)