ドラッカー教授の主要著作のすべてを翻訳し、「日本における分身」と言われた上田惇生氏と、『経営者の条件』を40回読み、読書会を主宰し、ドラッカー学会監事を務める佐藤等氏。最強のタッグによる『実践するドラッカー』シリーズに、最新刊【事業編】が加わった。はたして、ドラッカー教授の考える事業とは? 連載第1回、上田惇生氏に聞く。

事業について正面から取り上げたのは、
ドラッカーが世界で最初だった

ピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker)とは1909年11月19日生まれ。政治、行政、経済、経営、歴史、哲学、文学、美術、教育、自己実現など、カバーする領域は多方面にわたり、現代社会を読み解く最高の哲人とされる。東西冷戦の終結や知識社会の到来をいち早く知らせるとともに、「分権化」「自己目標管理」「民営化」「ベンチマーキング」「コアコンピタンス」など、マネジメントの主な概念と手法を生み、発展させた。その膨大な著作群は、「ドラッカー山脈」とも呼ばれる。2005年11月11日、96歳の誕生日を目前に世界中に惜しまれて他界。

 1946年に発行されたConcept of the corporation(邦題『企業とは何か』)は、マネジメントについて書かれた世界初の本である。そして同時に、事業について書かれた初めての本でもある。

 なぜなら、「何のために」という事業の存在意義、使命、目的が記されているからだ。それまで、進捗管理など事業のほんの一部のハウツーを取り上げたものはあったが、事業とは何かについて真正面から取り上げたものはなかった。

 続く『現代の経営』でドラッカーは、マネジメントの目的をシンプルに3つ挙げた。「事業」「ヒト」「社会」である。これらは60:30:10の割合で、事業に最も紙数を割いている。ヒトのマネジメントは組織の正当性を担保するものだが、事業のマネジメントは、組織の存在理由そのものにかかわるからだ。

 ドラッカーのマネジメント論の中心には、常に事業がある。『現代の経営』以降も、経営の百科全書『マネジメント――課題、責任、実践』、世界で最初の経営戦略書『創造する経営者』、さらには『イノベーションと企業家精神』、『非営利組織の経営』までもが、「事業」についての本と言える。