組織のデメリットを撥ね除ける「5つの習慣」

 私たちは組織固有の問題に成果を妨げられる一方で、組織という存在の特性を活かし、成果を最大化する必要に迫られています。良い点と悪い点が混在している組織だからこそ、意識的に成果をあげる工夫が必要だというのがドラッカーの主張です。

 では、どのような工夫をすべきなのでしょうか。ドラッカーが説く「成果のために身につけるべき5つの能力」を見てみましょう。

(1)何に自分の時間が取られているかを知る

 ドラッカーは、成果をあげる者は仕事、あるいは計画からスタートせず、時間からスタートするとしています。時間が何に取られているかを明らかにして、非生産性を取り除き、得られた時間を大きくまとめるのです。細切れの時間ではなく、大きくまとめた時間で重要な問題に集中的に取り組むためです。

(2)外の世界に対する貢献に焦点を合わせる

「どのような貢献ができるか」を自問しなければ、目標が低くなるだけでなく、間違った目標につながります。手元の仕事から顔を上げ目標に目を向けべきなのです。ほとんどの人は、成果ではなく努力に焦点を合わせ、組織や上司が自分にしてくれるべきことを気にしています。その結果、本当の成果をあげられません。人は、組織の外にいる顧客に、自らがどのような貢献ができるかを考えるべきなのです。

(3)強みを基盤にする

 組織は人それぞれの弱みを克服することはできませんが、弱みを意味のないものにすることはできます。組織の役割は、人の強みを共同事業の建築用ブロックとして使うことなのです。アメリカの南北戦争で、南軍の指揮官リー将軍は、バランスを欠き弱点もあるが、戦闘指揮では明らかな強みを持つ人物を要職につけていました。その将軍たちは、リンカーンが当初任命した可もなく不可もない北軍の将軍たちに何度も勝ったのです。

(4)領域の集中

 成果をあげる人は最も重要なことから始め、一度に一つのことしかしません。成果のあがらない人は、一つの仕事に必要な時間を過小評価し、急ぎ、同時にいくつかのことをします。

 もう一つ重要なことは「過去を計画的に廃棄する」ことです。すでに生産的でなくなった業務を定期的に発見し、それをやめること。優先順位を決める原則として、1.過去でなく未来を選ぶ、2.問題ではなく機会に焦点を合わせる、3.横並びではなく独自性を持つ、4.無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ、とドラッカーは述べています。

(5)成果を上げるための意思決定を行う

 意思決定は組織や業績に重大な影響を及ぼします。重要な意思決定に集中し、個々の問題より根本的なことについて考えるべきなのです。

仕事の大河で、上流に向かって泳ぐ習慣を身につけよ

 組織と仕事は流れ続ける大河のようなもので、対岸の目標に向かって、まっすぐに泳ぎ始めると、いつのまにか押し流され、はるか下流にたどり着いてしまいます。その結果、些末な日常業務が増え、時間は細切れになり、人の弱みばかりを指摘したくなる。大河の下流へ流されないよう、予め上流を目指して泳ぐ習慣こそが解決策なのです。

 そして、人の強みを発揮させ、弱みを組織が無効化することで、成果を最大化すること。ドラッカーの説く仕事術は、空虚な理想(長所ばかりの人間、欠点のない組織)ではなく、現実の組織とマネージャーの仕事への鋭い洞察から生み出されています。組織固有の欠点を避けながら、私たちが成果を最大化する上で、必須の戦略だといえるでしょう。

※この記事は、書籍『戦略の教室』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


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著者紹介

鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論、マーケテイングコンサルタント。MPS Consulting代表。貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。日本的組織論の名著『失敗の本質』をわかりやすく現代ビジネスマン向けにエッセンス化した『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社)は、戦略とイノベーションの構造を新たな切り口で学べる書籍として14万部を超えるベストセラーとなる。その他の著書に『企業変革 入門』『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(すべて日本実業出版社) 、『空気を変えて思いどおりに人を動かす方法』(マガジンハウス社)などがある。