経営者にとって真に価値がある
現場経験のある若手元経営者の言葉
並木 コンサルティング・ファームを使ったりはしましたか?
朝倉 経営寄りの人材が手薄だったこともあって、頭脳を借りるつもりでコンサルタントに協力してもらうことはありました。コンサルティング・ファームの中にいたこともあり、どういうリクエストを出せばよりバリューを発揮していただきやすいかはイメージが湧きました。よく「フィーが高いだけでそれに見合う価値がない」とコンサルタント批判をする人がいますが、半分はクライアント側にも責任があると思います。それは自転車にうまく乗れないことを自転車のせいにしているようなものですよね。
実はミクシィの経営をしていて感じたのは、いわゆるグレイヘア・コンサルティング(豊富な経験を論拠として助言を行う手法)がいかに価値あるものなのか、ということ。先ほど言った「心」の部分で、自分の考えを実行に移すことに迷いが生じている時に、背中を押してくれる人の存在はものすごく大きい。
会社の業績が悪くてバッシングを受けていた時、あるコンサルタントの方に言われた「どんなに辛い時にもへっちゃらな顔をしておくこと」という言葉は本当に身に沁みました。何百ページの分析なんかよりも、その一言の方がよっぽど重みがありました。
並木 そう言ってくれる人がいるかどうかは、トップにとって本当に重要ですよね。
朝倉 できれば、ほとんど隠居生活に入っているようなおじいさんや社外取締役を生業として渡り歩いているような人ではなくて、本当にひりひりするような意思決定を重ねてきた比較的若い元経営者、もしくは現役の経営者が理想的です。これからビッグデータが本格的に活用されるようになると、大手コンサルティング・ファームが得意とするような定量調査は、もうアルゴリズムだけでできるようになってしまうかもしれません。そういう意味でも、機械では絶対に代替できないグレイヘア・コンサルティングの価値はもっと見直されていいと思います。
並木 ちなみに、朝倉さんはこれからどうするおつもりですか。
朝倉 何も決めていません。少なくとも、フルタイムの仕事をするつもりは当面ありません。企業と同じで過去の成功体験の延長線上で働いていると視野狭窄に陥ってしまう。過去の自分を自己否定しながら、自身の幅を広げることに時間を充てていきたいと考えています。
並木 朝倉さんはまさに、ファクトベースとグレイヘアのハイブリッド人材だと言えますね。経営の経験があるからこそ得られるインスピレーションもあるし、リアリティをもった戦略を描ける。またコンサルとしての経験があるからこそ、それらを裏付けるファクトを揃えることができる。そうしたニュータイプのプロフェッショナルは、これからの社会に求められている人材であると同時に、コンサルティングという職業を必ずや一歩前進させてくれると思っています。若くして朝倉さんのようなキャリアを積む人が、コンサルティング業界に増えていくことを切に願います。
朝倉さん、貴重なお話をありがとうございました。