なんとなくわかる。本田美奈子の「つばさ」は永遠に封印すべきだ、という追悼の思いと、いや「歌い継ぐべきだ」というシンガーとしての意思が交錯し、引き裂かれてしまうのだろう。CDは廃盤になったとしても図書館などに残るからだ。

 しかし、入絵はライブでは歌った。2010年3月26日に東京・青山でリサイタルを開き、14曲演奏している。プログラムの最後は「命をあげよう」。そしてアンコールで「つばさ」を歌った。

 2013年6月29日には、東京・京橋のライブハウス「Fany Fany」でミニ・コンサートを開いた。プログラムは11曲。「命をあげよう」は入れていないが、「ミス・サイゴン」から男女デュエットの「サン・アンド・ムーン」を一人二役で歌い、聴衆を驚かせた。そしてアンコールで「つばさ」を歌った。「Fany Fany」の経営者は、本田美奈子のポップス・アルバム「晴れときどきくもり」(1995)のプロデューサー牧田和男である。この日はギターで伴奏も担当した。

 入絵加奈子が歌う「命をあげよう」は、帝劇初演の直前に正規のオーケストラ伴奏版で録音された「ミス・サイゴン日本公演ハイライト盤」(EMIミュージック、1992)に収録され、現在でも購入することができる(http://www.toho-re.co.jp/musicalcd/)。

 本田と入絵2人のキムによる歌唱が収録されている貴重なCDだ。仲間でもあり、ライバルでもあった2人の「命をあげよう」。まるで闘っているかのようだ。切れば血が出るような強靭な歌声を今に残している。

★三浦環の1930-40年代の録音については、次の次、第64回で書きます。