国民皆保険の全廃を主張し、医療を「トヨタを超える日本最大の輸出産業」に育てることを目指す医療法人KNI理事長の北原茂実氏。『あなたの仕事は「誰を」幸せにするか?』を出版し、話題になっています。そんな北原氏の講演を聴きに行くなど、氏の活動に注目し続けているのが、『自分のアタマで考えよう』などのベストセラーで知られるブロガーのちきりん氏です。日本のあるべき医療の形とはどのようなものなのか。両氏の対談を2回にわけてお届けします。(構成:宮崎智之、写真:田口沙織)
日本の医療制度が崩壊した理由は?
成立した前提自体が揺らぐ日本の現状
ちきりん たしか3年くらい前に、北原先生の講演を拝聴したことがあるんです。
北原茂実(以下、北原) ありがとうございます。
関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国留学を経て外資系企業に勤務。2010年末に早期リタイヤ後は、「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50ヵ国を旅している。2005年から書き始めた「Chikirinの日記」は、政治・経済からメディア、世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り、現在、日本で最も多くの支持を得るブログとなっている。著書に『ゆるく考えよう』『自分のアタマで考えよう』『未来の働き方を考えよう』など。
ちきりん 日本の医療や農業は、本来は国際競争に耐え得る高いポテンシャルのある産業です。でも、いろんな利権団体もあって政治的にも難しく、なかなか改革が進まない。そんなふうに考えていたとき、ちょうど医師として様々な改革を実践されている北原先生の講演があったので、これはぜひ聞きにいこうと思いました。
北原 講演はいかがでしたか?
ちきりん 一番驚いたのは先生のエネルギーレベルの高さです。4時間ぶっ通しで話されてて、びっくりしました(笑)。
医療は“聖域”と言われることも多いですが、私はそれでも市場原理を完全に排除するのではなく、人間のインセンティブ・システムを利用して物事を動かすという発想も必要だと思うんです。講演を拝聴して、北原先生のお考えもそれに近いと感じました。
あと、先生は医療界の常識にとらわれず、常に自分の頭で考え、加えてご自身で実践に移していらっしゃる改革者です。そういう意味でも、非常に感銘を受けました。
北原 ちきりんさんは海外での生活経験もおありです。海外の医療と日本の医療を比較して、なにか思ったことはありますか?
ちきりん 一番衝撃だったのは、20代の頃、アメリカ留学中に友人と一緒に中南米を旅行していたときのことです。現地で借りたレンタルバイクで転んで顔を切り、かなりの量の血が出てしまったんです。パニックして、アメリカ人の友達に「病院に連れて行って!」と頼んだのですが、心配そうな顔で「保険には入ってるの?」って聞かれたんです。もうびっくりして。「これだけ血が出ているんだから、お金の問題ではなくとりあえず病院でしょ!」と(笑)。日米の医療システムの違いを痛感したというか、まったく違う文化に生きていると実感した瞬間でした。