医療費を上げなければいけない理由
あるべき日本の「医療」のカタチとは?

ちきりん なぜ医療費を上げると国が救えるのか、その理由をご説明いただけますか?

北原 まずは前提として、すでに説明したとおり、日本の医療制度が制度疲労を起こしているということ。そしてもう一つの理由は、日本人の個人金融資産は1500兆円あると言われていることが関係しています。ただし、その60%は60歳以上が保有していて、20代はたったの0.5%。結婚して家庭を持ち始める30代でさえ、5.5%という低さです。この資産を動かさなければいけないのですが、日本人は投資をあまり行いません。ですから、「もしものときのために」と貯蓄に回し、最終的には相続という形で国と子どもたちに託されていきます。しかし、子どもが相続をする頃には、すでに中高年層となっているわけです。

ちきりん 1500兆円もの金融資産が、高齢者の貯金として使われないまま塩漬けにされてしまう。巧く使えば経済成長の源泉となる資金なのに、ってことですね?

北原 そうです。これを解決するために医療費を上げることが必要なのです。消費に消極的な高齢者たちでも、医療にならばお金を使います。しかも、よりよい医療を選ぼうとするモチベーションも高い。すると儲からないと言われている医療の現場にお金が流れ出す。2030年には「医療・福祉」の就業者数が944万人になり、「卸売・小売業」「製造業」を抜いてトップになりますので、その影響は大きいでしょう。こうした状況を実現するためには、国民皆保険制度の全廃と医療の自由化、新しい医療セーフティネットの構築が必要です。

ちきりん 高齢者に最高の医療を受けてもらって、どんどんお金を使ってもらおうということですよね。私もよく思うのですが、たとえばリハビリに関しても、気に入った専門スタッフに専属でついてもらえるなら、個人負担でいいから、いくらでもお金をかけたいという高齢者はたくさんいると思います。そうやって富裕層にお金を使って貰い、それを資金源にして医療のセーフティネットを充実させれば、誰も損をしないシステムになるんじゃないかと思うんです。でも、「経済力により、受けられる医療に差があってはならない」という感覚が、この国ではものすごく強い。

北原 そうでしょうね。ただ、費用が高い医療がいい医療かといえばそうとも限らない難しさもあります。たとえば日本人の死因1位は「がん」ですが、その根本にはストレスによって免疫機能が低下し、がん細胞の増加を許しているということがあります。だから我々がしなければいけないことは、社会を作り替えることです。そういうことも含めて私は「医療」と呼んでいます。

ちきりん ガンを手術で切り取ったり、放射線で焼き切るのではなく、免疫機能を高めることでやっつけようと。そういう、広義な意味での医療という概念をもつべきだと。

北原 そうです。そして、それを実現するためには「予防」という観点が重要になります。安全な衣食住を提供し、ストレスのない社会を作ることから始めなければいけません。医療のコアな部分は手術とICUです。ほかの部分は一般の人ができることが多い。病院の建物のなかで専門職が実施するものだけが医療ではなく、街そのものが医療の機能を持っていなければいけない。それが我々の考える「医療」なんです。

後編に続く)