ちきりん 社会制度の前提条件としての人口構成が変わってしまい、問題が噴出しているのは、医療だけでなく、年金や地方都市の在り方など、様々な分野にわたっています。人口動態は最も将来予測が容易な分野なのに、「まだ先の話だし。そのうち、なんとかなるだろう」と放り投げられたまま、ここまで来てしまったということに、ちょっと驚きます。
 一方、北原先生の医療法人が進出されているカンボジアやブータンは、若い人も多いし、今後の経済成長も期待できます。だから、戦後復興期、経済成長期に作られた日本の医療システムが向いているってことですよね? それらの国に進出されたのは、そのことが理由なのか、それとも一国のシステムを全体として設計するチャンスがある国で、理想的な制度を作りたいという趣旨なのか。どちらなのでしょうか?

北原 後者です。我々の入り方はあくまでも医療をツールとしていますが、本当の興味は国を設計することです。カンボジアは内戦で知識人が殺されてしまい、官僚も残っていませんので規制が少ない。また、経済成長しているのにも関わらず、医療の発展が追いついていない。このギャップが生じると富裕層が医療を求めて海外に流出し、富が失われてしまいます。そうすると、ますます医療が発展しません。そこに、我々が入っていける余地があるというわけです。

ちきりん 医療システムを核として、その国の骨格に影響を与えたいということですね。だとすると、政権のアドバイザーのようなお立場にも興味があるのでしょうか?

北原 それはありません。というのも、これは個人的な意見ですが、私は政治が日本を変えられるとは思っていないのです。たとえば、人口が逆ピラミッドの形になる少子高齢化という現象はよくよく考えてみると、人類が経験したことのない事態なんです。これが起こると、今までの価値観が全部変わり、システムをすべて変更しなければならなくなる。一番問題なのは選挙です。地域によっては半数が60歳以上なんて場所も出てきます。そうすると働いて税金、年金、保険料を払っている人の意見ではなく、もらう側の意見が通る国になってしまう。年金や保険だけではなく、民主主義までもが機能しなくなります。

ちきりん いまのシステムでは、若者や、子ども達の未来のことを本気で考える人が、国づくりに参加できなくなってしまいますよね。

北原 私の意見では、この国を救うためには医療費を上げるしかないと思っています。しかし、そんなことを言うと政治家は選挙に通らなくなってしまう。