敵をつくらない――。これが、社内政治の鉄則です。ところが、“できる人”ほど敵をつくってしまいます。なぜか?理路整然と相手をやり込めてしまうからです。「人を動かす」のが政治。相手を論破しても、恨みを買うだけです。では、どうすれば議論をせずに、相手を動かすことができるのでしょうか?
マネジャーになった途端に
「社内プレゼンス」の弱さを痛感
社内政治──。
この言葉を聞いて、あなたは何をイメージするでしょうか?
サラリーマンを題材にした漫画やテレビドラマの世界で繰り広げられる、激しい権力争いでしょうか。あるいは、上層部に媚びへつらう上司や、ライバルの足を陰で引っ張る同僚の顔を思い浮かべるでしょうか。いずれにせよ、ほとんどの人は、社内政治という言葉によい印象はもっていないと思います。
私も、リクルートに入社したばかりの若いころはそうでした。
社内の根回しに走り回る上司や、やけに社内事情に詳しい同僚を少し冷ややかな目で見ていました。「内向きになってどうする? 仕事はお客様のほうを向いてするものだ」「裏工作をするのは潔くない」などと思ったものです。
そして、社内の政治的な動きは気にもかけず、目の前の仕事に全力を注ぎました。そして、営業マンとして、6年連続でトップセールスを記録。30歳になるころには社内的なポジションもそれなりに確立することができました。
しかし、間もなくカベにぶつかりました。マネジャー(課長職)に昇進してからのことです。それまでは、スキルを磨きながら、がむしゃらに仕事をすれば結果はついてきました。ところが、マネジャーになったとたんに、それだけでは仕事がうまく回らなくなったのです。
私の部署で新規プロジェクトの検討を進めていたときのことです。緻密なロジックを積み上げた、説得力のある事業提案でした。社内の関係者数人から「この方向でいいんじゃない?」と賛成されていたので、何の心配もせずに決定会議に臨みました。
ところが、「この形で、進めていいですよね?」と念を押すと、これまであまり接触のなかった人物が「ほかにこういうやり方があるんじゃないか?」と発言。その発言に呼応して「そうだね、今そのプロジェクトに決定するのは拙速かもしれない」という声が上がると、賛成していたはずの人たちまでもが「確かに……」と同調し始めたのです。結局、事業部長が「次回、複数の提案を持ち寄って再度検討する」と発言。私の抗弁もむなしく、あっという間に保留となってしまったのです。
結果は最悪。他部門のプロジェクトが採用され、私の提案は却下。裏切られたような思いのなか、自分のプレゼンスの弱さを思い知らされました。それに、これまで一緒に汗をかいてくれた部下の信用も失う……。打ちひしがれるばかりでした。
このような経験を、私は何度もしました。会議でも、影響力や発言力のある人物が話すときにはその場に緊張が走り、参加者全員が聞き耳を立てます。一方、私が話し始めるとその場の空気が緩み、なかには携帯を見出すような人も現れる。それは、拭いがたい現実でした。
そして、私は、自分の存在感を強め、自分の意見を通すために、否応なく社内政治と向き合うようになっていったのです。