「政治力」=「巧みに物事を進めていく力」こそ、
課長にとっても最も重要な能力
「政治力」とは何か?
『大辞泉』(小学館)には、「自分や相手の立場をうまく利用して巧みに物事を進めていく力」と記されています。周囲を見回すと、できるマネジャーは、部下を掌握し、上司や上層部の信頼を獲得し、社内横断的なキーパーソンのネットワークもつくっている。そして、社内の利害関係を巧みに調整しながら、「自分が正しいと思うこと」を実現しているのです。
社内には常に対立する利害があります。経営陣は利益最大化をめざしますが、一般社員は働き甲斐を求めます。開発部門は潤沢な予算を使ってクオリティを追求しますが、経理部門は経費削減を求めます。限られた予算・人員などのリソースや有力なプロジェクトを、自分の部門に引っ張ろうと競い合います。
そのようななか、自分の部署に有利な状況をつくり出し、実績を上げ、プレゼンスを獲得していく。この「政治力」こそが、マネジャーにとって最も重要な能力だと気づいたのです。しかし、私は、決して「政治的センス」に恵まれた人間ではありませんでした。だから、社内で自分の存在感を発揮し、自分の意見を通すことが苦手でした。
しかし、だからこそ、力のある上司や先輩を観察したり、多くの関係書籍を読みあさり、試行錯誤しながら「政治力」を身につけてきました。そして、営業部から編集部への異動を果たし、入社以来の夢だった新雑誌を創刊、軌道に乗せた後、事業部長としてさらに大きな仕事を動かす経験をすることもできました。
人事コンサルタントとして独立してからは、クライアント先の社内力学を観察するとともに、数え切れないほどのビジネスマンの社内政治の「成功」と「失敗」を目撃。そこから、実に多くの教訓を得ることができました。
近年、私は、若いビジネスマン、なかでも「課長クラス」の人々の相談を受ける機会が増えてきました。そして、その悩みの大半は、社内政治に関するものでした。しかし、探してみると、正面から社内政治を扱った本はありませんでした。
そこで、書いたのが『「課長」から始める 社内政治の教科書』(ダイヤモンド社)です。これまでに私が学んできた「社内政治」のエッセンスを一冊にまとめたものです。想定している読者は、課長以上の管理職、ならびに課長昇進が視野に入ってきたビジネスマンです。特に、「政治的センス」に恵まれていない、少し不器用な人々を想定しています。かつて、社内政治でカベにぶつかった、マネジャーになりたての自分へのアドバイスのつもりで書き上げました。
このウェブ連載では、この本から、いくつかのテーマを絞って「社内政治」のエッセンスをご紹介していきたいと思います。第1回の今回は、社内に敵をつくらないために絶対に押さえておくべきポイントをお伝えいたします。