そんなことを考えていた時に手にとったこの本、『お客さんの笑顔が僕のすべて!』(松久信幸 ダイヤモンド社)は、暖炉の前でワクワクするおとぎ話を聞いているかのような本だった。あるいは、初めて映画版の『ドラえもん』を観たときのような気分だ。この本を読んでいる時に、私はそんな幼い頃の感情を思い出した。NOBU(彼の愛称)の人生という名の冒険記であり、情熱と哲学を感じ取ることができる本である。

 包丁一本で世界を渡り歩いた日本人の姿がここにある。彼は言葉が出来なくても、文化に戸惑いつつも、世界に飛び込んでいった。グローバル人材なんていう言葉が流行る前に、世界を唸らす味を作り出した日本人の姿がここにある。もちろん、松久信幸氏が規格外の男であることは否めないが、ここには世界で負けない日本人になるためのヒントが詰まっている。

 やれグローバル人材だ、MBAだ、マッキンゼーなど外資系コンサル流の仕事術を学べ、語学力をつけろなどという、よくあるグローバル人材論とは違う、世界で認められた日本人の姿がここにある。

 いや、そんなに力んで読まなくても、楽しめる本だ。これは『ONE PIECE』が世に出る前から冒険に出ていた男の、手に汗にぎるリアル冒険記なのだから。