私が「伸びた時期」

 生きていれば、どこかにがんばりどころがあります。

 ですが、そのタイミングは人それぞれ。20代に来る人もいれば、30代、40代で来る人もいる。いずれにしろ、そういう時期には必死にではなく、無我夢中でやることです。

 私にとってのがんばりどころは、30代後半から40代半ばにかけて。35歳で立ち上げたケニア・ナッツを10年以内に形にしたいと考えていた頃です。
私の場合、決して必死にはやりませんでした。

 無我夢中でやっていたのです。

 おカネもないし、人もいないから、何から何までほんの数人の同志と自分でやるしかない。肉体的にも物理的にも厳しい時期でしたが、もう無我夢中ですから、毎日が楽しくて仕方ありません。

 朝は6時に起きて、娘たちを車で学校に送り、1時間くらい仕事をしたら、中古車で1日200キロも運転してケニア各地に出かけていく。子どもの頃、野球ボールが当たって左目を失明して以来、ずっと片目しか見えませんから、車の運転は結構きついのです。それでも、運転手を雇う余裕なんてないので、デコボコの山道を自分で運転していました。

 昼間は農家を回り、夜はボロボロのスプリングに薄っぺらいマットレスが敷かれたきりのベッドで寝ました。バックパッカー用の安宿ですから、もちろんシャワーはなし。水道や蚊帳はあったりなかったり。電球なんてまずついていなくて、たいていロウソクです。壁にはつる草が這い、ドアや窓の隙間からヘビやゴキブリが忍び込んでくるようなところばかりでした。

 でも、いっこうに平気でした。山中で車のラジエーターが故障してにっちもさっちもいかなくなっても、夜中、蚊が顔のまわりをぶんぶん飛んでいても、何をしていても楽しくて楽しくて。トラブルに直面しても、わくわくしながら乗り越えてしまう。

「夢中」には、そういう明るさがあります。