岸見一郎（きしみ いちろう） 哲学者。1956年京都生まれ。京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学（西洋古代哲学、特にプラトン哲学）と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』（アルテ）、『人はなぜ神経症になるのか』（春秋社）、著書に『嫌われる勇気』（古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社）、『アドラー心理学入門』『アドラー心理学実践入門』（以上、ベストセラーズ）』、『アドラー 人生を生き抜く心理学』（日本放送出版協会）などがある。
岸見 あなたにとって、ブツブツがあるほうがひょっとしたらいいのかもしれないね。ブツブツがなくなったのに主役が回ってこないという現実に直面するのはすごく怖いですよね。
ゴーヤ 怖いっすね。つい先日演劇部の部長に、「お前はそんな見た目だから怪獣役を与えてるんだ」って言われたんすよ。それはバカにされてるんだと思ってたんすけど、実はオレにしかできない役だから、部長は信頼して怪獣役をオレに任せてくれたんすかね？
岸見 そうかもしれないね。登場人物全員がイケメンや美女ではドラマや映画は成り立たない。個性派俳優だって多いでしょ？
ゴーヤ いいっすね、個性派俳優っていう響き。
岸見 個性的な人がいなかったら演劇や映画は成り立たない。あなたはそういう路線を目指すべきなのです。なのに、容姿のせいで自分が役をもらえないと思っていた。それはきっと違うと思うよ。あなたの見た目をどう思うかは、他の人が決めることであって、自分自身はどうすることもできない。
ゴーヤ ま、そうっすね……。
岸見 そもそも周りの人はあなたの見た目をそんなに気にしてませんよ。
ゴーヤ そうなんすか？ みんなめっちゃオレのこと見てると思ってたんすけど。それは単に喋る野菜が珍しかっただけかもしれないっすね……。
編集者 仮に周りが四六時中、「ゴーヤさんの見た目はヤバい！」と思っていたとしても、あなたにはどうしようもないわけです。それは周りの人の感情であって、ゴーヤさんの課題ではない。
岸見 アドラー心理学で言う「課題の分離」ですね。たとえば娘がフリーターの彼氏を連れてきて「結婚したい」と言われ、母親が大反対としたとします。泣きながら反対するくらい娘のことを考えている母親ですが、その考えに合わせれば、娘は母親の人生を歩むことになってしまう。仮に「そんな人と結婚したらお母さん死んじゃう！」と脅されても、娘はひるまずに「そう、残念ね。短いお付き合いだったわね」と言い返すくらいの軽さがいる。人の課題ばかりに気を回しすぎないで、自分がしなければいけないことを考えたほうがいい。
編集者 スキンケアをやっている時間があったら、芝居を磨くべきです。
ゴーヤ 朝だけでも1時間かかるんですよ、スキンケア。洗顔・パック・マッサージ……そんな時間があるなら演技の勉強してたほうがいいっすよね。よし、これからは顔なんていっさい洗わないで頑張るっすよ！
岸見 いや、いっさい洗わないというのは……。
