なんとなく「どこか変かも?」
その違和感が最初のきっかけに

 ある日久しぶりに実家に帰った私は、言葉にできない違和感を抱きました。私と違い、母はキレイ好きです。なのに、なんとなく掃除が行き届いてない感じがする。そんなときもあるよね、今日はきっと疲れているのよね。私はそう自分に言い聞かせました。きっと母の老いを認めたくない気持ちが心の中にあったのでしょう。

 決定的なことが起こったのは、何年か前のお正月でした。趣味が日本画の母は、毎年自分で描いた絵を印刷して年賀状にしています。ところが、その年のものは、数年前に見たことがあるものでした。私はうっかり「これって、ずいぶん前の絵じゃないの?」と、責めるような口調で言ってしまったのです。

 母は、はっとした表情を見せ、「さすがにするどいね。見てないようで見てるんだねぇ」と言いました。顔では笑っていましたが、その口調はちょっと、いやかなり寂しそうでした。日本画というのは、絵の具を混ぜたり、下色を重ねたりするので、描くのにかなり体力がいります。いくら好きなことでも、億劫になってきたのでしょう。他人ならもう少し遠慮というものがあるのでしょうけれど、これが親子の難しさです。そういえば、押し入れには10年以上前から、いつか描くと言って買ったままの白地のキャンバスが放置されたままでした。誰でも年を取る。完璧なはずの母も。

 よく家の中を観察すると、変化が忍び寄っていました。