先日の『週刊ダイヤモンド』特集は「『値上げ』が襲う」だった。最近はこうしたマスメディアにインフレの話題が頻繁に登場している。

 昨年第2四半期のイングランド銀行(BOE)の調査報告によれば、英マスメディアもインフレの記事を掲載する頻度が近年異様に高くなっているという。インフレ率(RPIX)が9%に達していた1990年代初期に迫る勢いだ。

 英新聞18紙がインフレの記事を書いた頻度とインフレ率の相関係数は1998~2007年では0.48だった。しかし、2003~2007年の期間で見れば0.80に上昇している。

 RPIXは昨年第1四半期に4%弱まで上昇したが、1990年代初期に比べれば遥かに低い。物価が比較的安定していた時期が続いていたため、ここ数年の物価上昇に英メディアは神経質になっているようだ。

 BOEは年4回、国民のインフレ予想を調査している。BOEによれば、英国民のインフレ予想が上昇を始めた時期と、報道の頻度が高まり始めた時期は一致しているという。

 インフレ予想の上昇は現実のインフレ率を押し上げることがあるため、BOEとしても気になる様子である。「メディアにおける議論が家計の将来のインフレ予想を押し上げる役割をいくらか果たしたかもしれない」とBOEは解説している。とはいえ、国民のインフレ予想は実際の物価の変化(特に食品、光熱費、ガソリン等)にも大きな影響を受ける。それゆえ、BOEも「メディアのインフレ報道とインフレ予想の関係は非常に複雑である」と述べている。

 新聞がインフレに関する記事を増大させれば、国民のインフレのイメージは収斂する。

 もし英国民がBOEのインフレ目標の有効性を信認しているならば、インフレに関する報道が自動的に国民のインフレ予想を押し上げるとは限らない、ともBOEは指摘している。

 とはいえ、その点に関してはBOEにとって不吉な調査結果が出ている。BOEのインフレ制御に対する英国民の評価は急落を続けているのだ。2007年11月の調査では、「満足」から「不満足」を差し引いた数値は31%へ下落した。2005年11月の53%に比べ22ポイントも低下した。2000年5月以来の低さだ。

 一方、2007年12月に日本銀行が行なったアンケートでは、国民のインフレ予想は9月よりも大幅に上昇し、90%の人が物価上昇は困ったことだと回答した(1年前は83%)。現在のインフレ予想は消費心理に悪影響を与えている。かといって利上げはできない。悩ましい状況が続きそうである。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)