新たな成長機会を求めて日本企業のクロスボーダーM&A(企業の合併、買収)が活発化し、大型かつ巨額の案件も進行している。その目的は、将来的な「稼ぐ力」の向上にあるわけだが、期待したシナジーを発揮できず失敗とされる案件も珍しくない。クロスボーダーM&Aを成功させるポイントについて、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の伊藤友則教授に聞いた。
「何を」買いにいくのか
――各国市場のグローバル化に伴う「業界内の寡占化は避けられない」という共通認識から、日本企業のクロスボーダーM&Aが増加傾向を続けています。その背景には、選ばれた少数のプレーヤーだけが市場を掌握するという危機感があるようです。現況をどうご覧になっていますか。
伊藤(以下略):日本企業によるクロスボーダーM&Aの実態を見ると、積極的にリスクを取り、M&Aのノウハウを身につけるケースが増えている点は評価できます。しかし一方で、クロスボーダーM&Aをあたかも流行のようにとらえ、「M&Aありき」で失敗するケースが散見されます。M&Aは事業戦略の一手段であるということがなおざりになっているのです。
投資銀行での実務経験から見れば、日本企業のプロセスはセオリー通りといえますが、メガマージャーと比べると5つの弱点が目立ちます。裏を返せば、「統合を成功させるための5つの条件」といえるでしょう。
その第1は、「企業トップのリーダーシップ」です。クロスボーダーM&Aは文化やビジネス環境も異なる国での大きな買い物であるのに、トップのリーダーシップの欠如とコミットメントが不足しているケースが圧倒的に多いのです。
買収で「何を」買いにいくのか。市場なのか人材なのか、それともブランドか。まずはそうした戦略があるべきなのに、買うことが目的化して十分な準備もなく交渉に入ってしまう。自社の将来を見据えて、「いま、何を買うか」を決めるのが、トップの仕事です。
第2に、「ターゲット企業の人材の活用」が挙げられます。日本流の押しつけでも放任主義でもなく、必要な(残ってほしい)人材と評価について方針を示し、コラボレーションを創造する。経営陣は時に本社を諫める〝盾〟となり、時に方針を浸透させる〝伝道者〟という2つの顔を持たねばなりません。
公開会社の買収では、市場が適正と認める株価に3~5割程度のコントロール・プレミアムをつけて買収しますが、この上乗せ分を上回る相乗効果で生み出すのは、自社の強みと被買収会社の強みを合体させる人的な能力です。それが両者の納得感の高いKPIの策定にもつながります。