お客様を自分のファンにする
一生もののフレーズ

 たとえば、お客様が約束の時間に遅刻してきた場合には、皆さんはどう声をかけているだろうか。8名の達人でも回答は分かれた。それぞれに顧客との距離感が違うからだ。

 高級車販売会社であるコーンズ・モータースでロールスロイスを売る阿部達成氏は、相手が少しくらい遅れてくるのは当然と考えている。したがって、遅刻のことにはいっさい触れず

「お待ちしておりました」

とだけ言うという。

 飛行機で出発直前にお客様が走ってくるようなケースもよく見かける。そんなときにANAの片岡美也子氏は、

「急いでいただいてありがとうございます」

と、他の人に聞こえないように小さな声で伝えるという。

 さすがとしか言いようのない配慮だ。こうした場面では、遅れた乗客は恐縮している。そんなときに「なんとか間に合いました」とでも言われてしまうと、さらに悪いことをした気になってしまうだろう。だが、「急いでいただいて……」と感謝されたら、またANAに搭乗したくなってしまうではないか。ほんのわずかなひと言が、顧客の心をわしづかみにするのだ。

 高級品を扱う専門店の和光で宝飾売場に立つ西村啓子氏は、お客様が約束の時間に遅れた場合、

「お忙しくていらしたんですね、お疲れではないですか?」

と、素敵な笑顔で心配してくれる。たった一言で、単なる店員とお客様の関係が決定的に変わる瞬間だ。僕なら、間違いなくファンになってしまう。

 皆さんも、是非このような「一生使えるフレーズ」を身につけて欲しい。

(続く)