独自性を生み出す「らしさ」と
固定化を生み出す「らしさ」のジレンマ

奥野武範(おくの・たけのり)
出版社に勤務後、2005年に東京糸井重里事務所に入社。読み物チームに在籍し、コンテンツでは『東北の仕事論』『21世紀の「仕事!」論。』、書籍『はたらきたい。』の編集など、「はたらく」や「仕事論」系を担当している。

奥野:「らしさ」についてはどうですか?ウェブサイトというBtoCのメディアをやっていると、直接ユーザーに見られているからこそ、「らしさ」を常に意識して、逆に「らしさ」という言葉に逃げ込んでしまいがちだと思うのですが。

吉里:「らしさ」は難しいです。東京R不動産の初期のメンバーは言語化せずともなんとなく共有できていますが、次に入ってきた世代は、僕らの動きをある程度見て、そこにちょっとした憧れを抱いて入ってきますよね。そうすると、彼らなりの「東京R不動産らしさ」というものができあがってしまっている。「らしさ」よりも固定化された「枠」を作ってしまっている気がするんです。ただそれも必然的に起きる構造で、今はそういうフェーズなんだろうなとは思っています。だから今は、あえて「らしさ」を崩すことにも気を配っています。

篠田:ほぼ日は、糸井重里が主催する雑誌(メディア)という性格があります。14年という時間の経過とともに、彼の意識や興味の対象の変化、何をよしとするかに関しても、「らしさ」に関わってきます。今はまだ、「らしさ」の最後のジャッジができるのは糸井なんですね。

 例えば、最近でいうと気仙沼に支社(ほぼ日の気仙沼)を出す時に、最初は全員「えぇ!?」と驚きました。でも最後の一歩は糸井が決めて、それがやはり「らしさ」になっていっている。もちろん、そこに頼ってしまっていることは、会社の継続という観点からは課題になります。

 日ごろの仕事の中では、「らしさ」にとらわれて保守的になっているとか、同じことを繰り返しているなあとか、自分が楽しく仕事ができていないなあ、などと自分や仲間が気づくこともあります。 何よりお客さんが厳しいですね。お客さんが「ほぼ日らしい」と思う範囲の中で、新しさを求めて毎日サイトを訪れるので、まず訪問数に出ますね。

奥野:それが、「歌の2番を歌わない」ということじゃないかと思います。常に新しいものを出していかないと。