情報の価値は文脈に依存する
田端 講演会や書籍などの「情報」という財に対するプライシングって、難しいですよね。使ったら減るもんじゃないし、そもそも独占的に所有できない、というところもありますし。
ちきりん 減るもんじゃないですが、出しすぎ、つまり露出し過ぎると価値が下がると思います。私よりよほど有名でも、講演会のチケットを売るのに苦労してる人もいるんじゃないかな。テレビや雑誌にたくさん出て、なおかつ講演会もあちこちでやってたりすると、需要に対して供給過多になってしまう。それはモノに限らず、情報でも同じだと思います。
田端 あと、情報の場合は、買い手が払うコストって、実はお金より、時間のほうが大きい気がします。いろんなところに露出してるということは、それを全部ウォッチしてもらうのに、ウォッチャーといいますか、受け手に対して、時間のコストをたくさん要求するということになりますよね。つまり、そうすると、損した気持ちになりますよね。適切なタイミングで、適切なウェイトで、情報を出してくれて、時間を浪費させないでくれる人のほうが、情報を得る側からすると、お買い得な人なんじゃないでしょうか。あと、情報のプライシングは、文脈をどうつくるかによっても上下すると思います。
ちきりん どういう文脈ですか?
田端 ある有名ブロガーの方から聞いたんですけど、ホテルで夕食会をやったらしいんですよ。20名限定で2万円くらい。おそらく情報のバリューとしては、同時期にやっていた3000円の講演会とそんなに変わらないと思います。でも、その2万円の夕食会が一番人気だとおっしゃっていて。
ちきりん なるほどー。
田端 これって、要は情報自体よりも、有名人と少人数で同じ時を過ごす、という体験にお金を払ってるんだと思うんですよね。そうなると、同じ内容の情報でも、例えば「ホリエモンがブログに書いてたんだけどさ」と話すと「ふーん」という反応で、「堀江さんの有料メルマガで読んだんだけどさ」というと少しありがたい感じがする。そして、「堀江さんとディナーした時に聞いたんだけどさ」なんて言ったら……。
ちきりん すごい価値ある情報に思えてきますね(笑)。
田端 夕食会をやっていたのは堀江さんじゃないですけどね。こういうふうに、価値はけっこう文脈に依存すると思うんですよね。
ちきりん その話、すごくおもしろいですね。たしかに今の人ってお金よりも、自分の時間をどういう体験に使ったか、ということが売りになってると思います。みんな、特別な体験をほしがってる。
田端 究極的には、承認や優越感を感じたいんですよね。
※この対談は全5回の連載です。 【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】