岸見 「この頃、なんだか夫と子どもの関係が良くなっている」という実感があれば、奥様も読もうと思われるのではないでしょうか。片桐さん自身の子どもに対する態度がまったく変わらない状態で薦めても、むしろ逆効果だと思いますよ(笑)。

片桐 そ、そうですよね。でも、ぼくひとりが変わってもなあ……。

岸見 家族のなかでひとりが変わると、その家族全体が変わります。おそらく、子どもたちのほうが先に父親から学ぶでしょう。『嫌われる勇気』のなかでは、家族ひとりが変わると全体が変わる例として、強権的だったぼくの父の話が出てきます。

古賀 晩年、介護が必要になったお父様が、「ありがとう」とおっしゃった話ですよね。

岸見 はい、ぼくはそれまで一度も父が人に「ありがとう」と言うのを聞いたことがなかったので、心底驚きました。ある国に、「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」ということわざがあります。ぼくは介護を通じて父を水辺に連れて行こうとした。そして最終的に、父は自分の意志で水を飲んでくれた。あの「ありがとう」は、忘れられません。

(次回へ続く)