「キットカット」や「ネスカフェ」でおなじみの外資系企業「ネスレ」。日本に来たのは100年以上前だということはご存じでしたか? ネスレ日本社長の『ゲームのルールを変えろ』を読み、この「老舗外資系企業」がいかに発展したかを知れば、日本企業がグローバル市場で成長するヒントが得られるかもしれません。
人口減少によって国内市場の縮小が避けられないことが明らかになった今、大企業から中小企業に至るまで、グローバル人材の育成は喫緊の課題となっています。本書はグローバル人材の育成、マーケティングと日本的経営の革新に興味を持っているビジネスパーソンにぴったりの1冊です。
著者の高岡浩三氏は、アメリカに「追いつけ、追い越せ」を目標とする「ニッポン株式会社モデル」が制度疲労を起こして長い停滞期を過ごしているのは、状況を打破するイノベーションが起こせないからだと言います。
高名な経営学者であるゲイリー・ハメルによれば、イノベーションは、最下層にあるオペレーションのイノベーションから上位に向かって、製品・サービスのイノベーション、ビジネスモデルのイノベーション、構造的のイノベーション、そして最上位に位置するマンジメントのイノベーションまで、5段階あります。本書には、イノベーションのヒントがちりばめられています。
高岡氏はネスレ日本の社長。スイスに本社を置く親会社のネスレは世界最大の食品・飲料メーカーで、年間の売上高は9兆円を優に超えています。なんと言っても、主力のチョコレート「キットカット」をトップ商品に押し上げ、「ネスカフェアンバサダー」という新たなビジネスモデルを構築したエピソードが抜群に面白いのです。
キットカットが
受験生のお守りに
ご存じのように受験シーズンともなれば、いまやキットカットは受験生のお守りとして使われる定番商品となっています。ことの起こりはスイス本社で、これから数百年続くビジネスにするための新たなビジネスチャンスを探すというプロジェクトが実施されたことでした。このプロジェクトリーダーとなった高岡氏は、それまでのキットカットのスローガンであった『Have a break, have a Kit Kat.』のbreak(ブレイク)ってなんだろうかと疑問を呈しました。するとブランドマネジャーが答えに詰まります。
そこから日本人にとってのブレイクとは何かの追求が徹底的に始まりました。『Have a break, have a Kit Kat.』は、仕事の合間に一息入れて、仕事に戻るという設定です。これに対して日本人が理想とするブレイクとは、ストレスのかかることをすべて終えた後に、まったりとした時間を過ごすこと=「ストレスからの解放」であることを見つけます。その視点に立って、キットカットの最大の消費者である中高生のストレスを分析すると、「受験、恋愛、友人関係に起因していることが判明」(129ページ)します。
この活動をしているときに、九州支店の支店長から連絡が入ります。毎年1月と2月に、キットカットの売れ行きがよい、と。「キットカット」と九州の方言である「きっと勝つとぉ」が似ているため、縁起担ぎで受験生を持つ親御さんに買われていたのです。ですが、グローバル企業のブランド管理の観点から、このゴロ合わせによるマーケティングは一度却下されます。翌年、九州支店長から再度同様の連絡が入ると、高岡氏は「これだ」と直感します。