「ウェイさん、こんにちは」

「健太、また君かい。今度はどんな難題をくれるのかな。おや、チョウさんも一緒か」

 ウェイは明らかに嫌味とわかる言葉で3人を出迎えた。

〈完全に対決モードだな。困ったな……〉

 健太がどう切り出そうか迷っている姿を尻目に、麻理はコスト構造の分析結果についてウェイにシェアした。

「そんなことはわかってるよ。うちのコスト構造が高いのは、不良品をたくさん出している生産部門が足を引っ張っているからだろう」

 その発言を聞いてチョウの表情が強張ったが、健太はチョウに目配せしてからウェイに言った。

「ウェイさんの言う通り、それも原因の一つです。だからこそ、モデルラインを導入したのです。今は責任を押しつけ合うよりも、全社一丸でコスト削減に取り組むべきだと思います」

 健太が答えると、チョウも加勢してくれた。

「最近はいつティアダウンを行ったんだい。しばらくやってないのなら、やってみてはどうかな。部品によっては、今よりいい条件を出してくれるかもしれないぞ」

「ティアダウンはやるのが大変なんだ。それに、今の我が社の業績では、いいサプライヤーが集まってこないさ」

「そこはウェイさんの腕の見せ所だよ。前職でも重要なサプライヤーを一手に引き受けていたんだ。彼らとの関係は今も続いているんだろう?」

 ウェイは少しでも褒められると、極端に反応する。自尊心の強い性格を、チョウはよく知っている。さらにチョウは畳み掛けた。

「価格競争力を高めて市場シェアを奪回するためには、ぜひともウェイさんの力が必要なんだ」

〈チョウさんも歯が浮くようなセリフをよく言えるな。でも、ウェイさんの態度も軟化してきたぞ〉と、健太はウェイの顔色を観察した。

「しょうがないな。じゃあ、来月やるよ。でも、コストが下がったとしても、急に競合並みになるとは期待しないでくれ。サプライヤーとの関係も変わってきているからな」

「関係が変わってきているって、どういうことですか」と健太は思わず聞き返した。

「サプライヤーも力をつけてきて、より複雑な部品を納入するようになってきたのさ。以前なら、我々のような生産工場が自分で作っていた部品を、部品のサプライヤーが作るようになったんだ。我々よりもよっぽど優れた部品を作れるサプライヤーも出てきた。だから、ティアダウンでも、部品によっては作れるサプライヤーが1社しかないから、逆効果になることもある」