それを聞いていた麻理がウェイに尋ねた。
「以前はここで作っていて、現在は社外から購入している部品もあるんですか」
「チューブとプレートはそうだね。モデルラインでも明らかになったように、まだサプライヤーの技術が安定していないところが悩みだけど」
「それではクランクケースはどうですか。アウトソース(外部への生産委託)は可能ですか」
「いや、クランクケースは難しいだろう。精度の高い加工機械が必要で、よほど大きなサプライヤーでなければ機械を導入できない。結果として、要求される水準の品質を提供できないんだ」
麻理はその答えを聞いて、何やらアイディアが閃いたようだった。
メイク・オア・バイ
ウェイのオフィスを出た3人は、改めてチョウのオフィスで話し合った。
「チョウさん、ありがとうございます。おかげさまで、ウェイさんもティアダウンの実施に同意してくれましたね」健太はチョウに感謝の気持ちを示した。
「ただ、私が調達部門の責任者を務めていたときよりも、サプライヤーは進化しているからね。チューブとプレートは、以前は自社で生産していたが、もう社外から調達したほうがコストが安く済むんだ」
そこで麻理が自説を展開した。
「材料費の7割を占めるモーター、クランクケース、シェルを、アウトソースに切り替えることはできませんか」
「なるほど。メイク・オア・バイということだね」とチョウも頷いた。
「何ですか、そのメイク・オア何とかって?」健太は尋ねた。
「製造原価を下げる取り組みの一つで、自社で生産するか、他社から調達するか、コストを比較して安いほうを選択するという手段だよ」
「なるほど。コスト削減を徹底すると、そこまで来るのですね」
「確かにモーターとシェルは、サプライヤーからの購入を検討してみる価値がありそうだね。自前で作るよりも良いものが調達できるかもしれない。問題は価格だ」
「クランクケースもアウトソースできませんか。大手の部品メーカーは作っているだろうし、当社のサプライヤーで同程度の実力を持つところはあるはずです」
「ウェイさんが言った通り、うちは最新式の生産設備を持っているから、社内で作ったほうが安いよ。それに、当社のサプライヤーで、クランクケースの生産設備を持っているところはないよ」
「だったら、当社の生産設備を有償で譲ってあげたらどうでしょう?その代わりに、当社はそのサプライヤーからクランクケースを毎年安定的に購入する約束をするんです」
麻理のアイディアに、チョウも何か閃いたようだ。
「なるほど。確かに、うちのクランクケースの生産設備は、当社のコンプレッサー生産量の3倍は供給できるほど能力が過剰だ。もし部品製造に特化したサプライヤーがこの設備を使いこなせたら、もっと精度の高い部品を安価で製造できるかもしれないな」
「クランクケースを製造したくても設備導入の資金力がないサプライヤーにとっては、アレンジ次第で魅力的な提案になるというわけですね」と健太。
「そうだね。私が知っている範囲でも、そのような意欲を持つサプライヤーが2~3社はありそうだな。資産売却の話も絡むから、スティーブと相談してみるよ」
「ありがとうございます」
「麻理さんは、どんなアレンジなら当社にとってメリットがあるか、分析してくれないかな。スティーブと私に提案してもらえると助かる」
「わかりました!」
麻理は自分の提案が取り入れられたことが嬉しそうだ。